14

「……そうか……」


 マリナもまた、すべてを理解したかのように呟く。

 そのまま導かれるかのごとく、レティーツィアの目の前にやってくる。


「そういうことだったのね……。あなたみたいな不純物が混じってたから、シナリオどおりに進まなかったんだ……。おかしいと思った。だってリヒトさまの態度、あまりにもシナリオとかけ離れているもの……。なんだ……。そうだったんだ……」


 そして、レティーツィアの頭を乱暴につかんだ。


「ッ……! 痛っ……!」


「リヒトさまと結ばれるのは、私。それが『正しい』ってこと、あなたも知ってたんじゃないですか。なのに、邪魔するなんて……。悪役令嬢のくせに、何を夢見ちゃってるんですか?」


 まるで雑草を抜くかのように髪を引っ張って、レティーツィアの顔を覗き込む。


悪役令嬢あなた攻略対象リヒトさまが結ばれるなんて、絶対にしちゃ駄目なことじゃないですか。だって、それは『間違い』なんですから。シナリオにそんなルートはないんですから」


「……ッ……」


「それは、主人公わたしが無茶をして、強引に『正しいルート』に戻すのとはわけが違いますよ? 悪役令嬢としての役割を放棄して、欲望のまま攻略対象を奪おうとするなんて……。あなた、この世界を壊す気だったんですか?」


 そんなつもりなどあるはずもない。——心外だ。


 邪魔をした覚えもない。少なくとも、レティーツィアに邪魔する気は皆無だった。

 むしろ、マリナとリヒトの仲がうまくいくよう、心から願っていた。


 だけど――もう遅い。


 今さらそれを訴えたところで、何かが変わるわけでもない。

 レティーツィアは痛みに耐えながら、さらに笑みを深めた。


「好きに解釈してくれて構わなくてよ」


「っ……! それで、リヒト殿下を不幸にしてもいいと? 恐ろしい人……。最低ですね!」


「……ッ……」


 リヒトを不幸にしてもいい――?


 冗談じゃない。一番リヒトの幸せを願っているのは、間違いなく自分だ。

 それだけは、自信を持って断言できる。


 レティーツィアは手のひらに爪が食い込むほど、固く拳を握り締めた。


(激昂しては駄目……。落ち着いて。今やるべきことは、とにかく、相手に喋らせること)


 そして、会話の中からヒントを探す。ここはどこなのか。今は何時なのか。どういった計画なのか。これからどういった段取りでものごとを進める気なのか――。


 何をするにも、情報は必要だ。まずは、それを集めることが先決。

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