13

 マリナが再び勝ち誇ったような笑みを浮かべて、レティーツィアを見下ろした。


「ね? それで世界が手に入るなら、安いものだと思いませんか?」


 それには答えず、セルヴァを見る。

 レティーツィアの視線に気づいて、セルヴァは悪びれる様子もなく肩をすくめてみせた。


「ごめんね? でも、国のためなんだ。ヴェテルをなくすわけにはいかない」


「……国のためならば、友人を踏みつけることも厭わないということですか。それはそれは、素晴らしいお考えですわね。感服いたしますわ」


 たっぷり嫌味をこめて、言ってやる。ラシードがなんと言っていたか、聞かせてやりたい。


 だが、セルヴァを責めるつもりはない。いや――むしろ、セルヴァの行動こそ正しいのかもしれない。


 それほど――この世界では、六聖は絶対なのだ。


 国がすべて。民がすべて。大義のためなら、女一人拐かすことぐらい大したことではない。むしろ、そんな小さな犠牲ですむのであれば、積極的にそうするべき。


 セルヴァは皇子として国を背負う身だ。その考え方は決して間違ってはいない。


 おそらくは、本人もそう思っているのだろう。大して堪えた様子もなく「怖いな~」などと苦笑している。


 レティーツィアは息をついて、マリナに視線を戻した。


「……ずいぶんとまぁ、力業で来たわね。さすがに驚いてよ」


「え? そうですか? そんなことないと思いますけど? リヒトさまから、ちょっと離れてもらうだけですから。邪魔な婚約者を排除するなんて、むしろ普通のことでは?」


「――そっちではないわ」


 レティーツィアはきっぱりと言って、無理やり唇の両端を持ち上げた。


 笑え――。憎らしいほど、余裕たっぷりに。


 主導権イニシアチブを握れ。相手が六聖といえど、黙って潰されてやる道理はない。


 逃げるために、自分を守るために――笑え!


「一年という攻略期間を、ずいぶんと短縮したではないの。まさか、クリスマスのイベントを開始一ヶ月やそこらで起こしてしまうなんて。さすがに大胆すぎではなくて?」


「ッ――!」


 セルヴァとノクスは、その意味を理解できないだろう。いや、二人だけではない。リヒトも、イザークも、ラシードも、エリザベートも――誰も理解できない。


 レティーツィアと同じ、転生者でなくては。


(ああ、やっぱり……)


 マリナが息を詰め、愕然とした表情を浮かべたことで、確信する。


 主人公――マリナ・グレイフォードもまた、レティーツィアと同じ前世の記憶を持つ者だ。

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