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 地団太を踏んで悔しがるほどの余裕っぷりを見せつけてやろうと思ったのに、その聞き捨てならない言葉に、思わずマリナをにらみつけてしまう。


「……ください、ですって?」


「ええ。結ばれる相手は、リヒトさまがいいから。リヒトさまが、私の最推しなんです」


 怒鳴り散らしてやろうと勢いよく息を吸った瞬間――しかしマリナが続いて口にした言葉に、レティーツィアは目を見開いた。


(最、推し……?)


 ろくなエンターテイメントなく、ヲタク文化も発展していないこの世界で、『推し』という言葉はほとんど聞いたことがない。それを使う人間も――知らない。レティーツィアの影響で、エリザベートが最近使うようになったぐらいだ。


(それに、今……最推しって……)


 マリナは『推し』ではなく『最推し』と言った。と――。


(ああ、そうか……)


 まるで、ほかにも選択肢が存在するかのような言葉。


 それが意味することは、一つしかない。


「覇王が世界を一つに統一したら、リヒトさまが治める国はなくなります。そうしたら、もう皇子と庶民の娘じゃなくなります。ただの男と女――とはちょっと違うかな? もと王族と、世界で唯一の存在――尊き六聖の乙女って言うべきですかね」


 ひどく楽しげに――まるで歌うように声を弾ませて、マリナが言葉を続ける。


「ただの王ですら、気に入った女を傍に侍らせることができるんですよ? だったら、世界でもっとも尊き存在の私に、それができないわけありませんよね? だから私、セルヴァさまにしたんです」


 悪戯っぽく人差し指を唇に当て、笑みを深める。


「国とか、政治とか、まったく興味ないんで、そこは好きにやってもらっちゃっていいので、私の願いを叶えてください。叶えてくれるなら、あなたを覇王に選びますって」


「あなたの願い……? リヒト殿下をくださいって、あれのこと?」


「ええ。まずは、旧・シュトラール皇国のもっとも美しい場所に離宮を用意してくださいってお願いしました。私とリヒトさまが暮らす愛の巣です」


 うっとりと夢見るように言って――一転、ひどく冷ややかな目でレティーツィアを見る。


「だけど、それだけじゃ駄目。リヒトさまは根がお優しいから、ただの政略結婚の相手すらも無碍にできないみたいなんで、もう二度と邪魔なんてできないように、リヒトさまの周りからあなたを完全に排除してくださいって。これが二つ目のお願いです」


「っ……!」


「殺せなんて物騒なことは言いませんし、それをされるのは寝覚めも悪いんで、どこか遠くへやっちゃってくださいって。二度と、リヒトさまの前に現れることなどできないように」

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