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ラシードがギリリと奥歯を噛み締める。
「六聖にオレが選ばれて、ヤークートがほかの五つの国を飲み込んでしまうのだとしたら……オレは友の国を潰すことになるんだ。オレはそのあと、笑えるだろうか? 幸せに生きられるだろうか?」
「……ラシード殿下……」
「もちろん、オレはヤークートを心から愛している。永遠であれと思っている。だが、それはアイツらも同じだ」
「……ええ」
レティーツィアは唇を綻ばせ――頷いた。
ああ、やはり、この皇子は素晴らしい。
「そのとおりですわ。ラシード殿下……」
「ヤークートの民を思うなら、父王の考えのほうが正しいのかもしれん。ヤークートのため、六聖に必ず選ばれろという、な。六聖に選ばれさえすれば、どんな統一がなされたとしても、ヤークートは残る。そして、永遠に続く」
ラシードが両手を固く握り合わせて、「そうだ。父王は正しい……」と繰り返す。
「だが、オレはそうしたくない。それは、オレに王たる自覚が足りないからだと思うか?」
「いいえ」
レティーツィアは首を横に振った。そんなことは絶対にない。
「逆ですわ。ラシード殿下。殿下は、ヤークートだけを思っていらっしゃらない。ほかの国も、そこに住まう民たちも同じように思っていらっしゃるのです。それは素晴らしき王たる資質でございましょう」
住まう国が違えど、同じ人間だ。
ほかの国を、民を犠牲にしてもいいなどと考える王は、ことが起これば、必ずその攻撃性を自国の民にも向ける。
もっともらしい大義を掲げ、これは必要な犠牲だなどと言うのだ。
「平和を愛する王が、愚かなはずがありませんわ」
どんな理由があろうと、流れる涙や血を惜しめる者こそ、王にふさわしいと思う。
国の区別などなく、一つの命をもっとも尊いものだと言える王こそが――。
レティーツィアの言葉に、ラシードがホッとしたように微笑む。
そして、レティーツィアをいたわるように、その細い肩をポンポンと叩いた。
「……レティーツィア嬢は、うちのナディアとは違う。アイツは、マリナ・グレイフォードが急に皇子たちにチヤホヤされ出したことにプリプリしているぐらいで済んでいる。それは何も知らないからだ。……不安だろう?」
神話を――予言を知っているからこそ。
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