「六つの国の在りようはそのままで、今の六人の王の上にさらなる王が立つのか。六人の王が排斥され、一人の王のもとに政治や経済が統一されるのか。それとも――」


「一つの国が、ほかの国を飲み込むか――ですわね」


 レティーツィアの言葉に、ラシードが頷く。


 現在の六つの国はそのままで、六人の王もそのまま。ただ、王という称号は失われ、現在の六人の旧・王の上に、一人の王が立つ。


 それは、もと日本人のレティーツィアには、理解しやすい構図だ。


 天皇陛下と内閣総理大臣を足したような存在の世界の覇者の下で、県知事的な存在となった六人の王が覇者の手足となってその地を治める。


 日本は、わりと昔からそんな感じだった。江戸時代もそう。江戸幕府と征夷大将軍のもとで、日本は藩という区分けがされ、藩主がそれを治めていた。


 それならば、大きな混乱は起こらないだろう。今の六つの国が持つ特色も残りやすい。


 六人の王が排斥され、一人の王のもとに政治や経済が統一される道は、一番何が起こるかが予測しにくい。


 現在――六国は文化や風習はもちろん、通貨も経済も政治形態も大きく違う。文化や風習は残しつつ、通貨を統一し、法律も一新し、経済や政治形態も方針を一つにする。


 うまくいけば、たしかに世界はさらなる発展を遂げるだろう。


(でも、急激な改革は、世界に混乱をもたらすもの……)


 六聖の名だけで、民が世界を根底から覆す大変革を受け入れるとは思えない。


 なぜなら――民は未だ、予言の存在を知らないのだ。


 マリナ・グレイフォードが六聖として覚醒したこと。そして、神話の続きと予言――。


 それを知るのは、世界六国の皇子たちとその側近。そして、皇子たちより報告を受け取った王と王族のみ。政治を行う大臣たちにも周知した国もあるそうだが、基本的にはそれだけだ。


 例外は――レティーツィア。


 そして、マリナ・グレイフォード本人だ。


「…………」


 レティーツィアはそっとため息をついた。


 覚醒の光を目撃した学園の者たちは、しかし誰も、それが『六聖の覚醒』の光であることを理解していなかった。そもそも、世界六国の皇子たち以外は、六色の光が溢れ出た地点に何があるかすら知らないのだ。


 レティーツィアの言葉によって、皇子たちとその側近がその場に赴き――すべてを確認した、そのあと。皇子たちの要請で、生徒たちには緘口令が敷かれ、森に絶対に近づかないようにと再度徹底がされた。


 そして、世界六国の発表を待つようにと――。

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