第五章  悪役令嬢ですもの! 推しのためなら世界ぐらい壊して差し上げてよ!

「大丈夫か? レティーツィア嬢」


 頭上から降ってきた声に、レティーツィアはハッとして顔を上げた。


 燃える炎のような鮮やかな髪が、温かな日の光を受けて煌めく。レティーツィアは眩しげに目を細めた。


「ラシード殿下……」


「……リヒトは帰ってきたのか? 今朝はまだ見かけなかったが」


 ラシードがレティーツィアの隣に腰を下ろす。


 白いとんがり屋根が可愛らしい――薔薇園の中のガセポ。レティーツィアはエリザベートと出会ってから、昼休みはほとんどこの薔薇園で過ごしている。


 そろそろ薔薇は最盛期だ。さまざまな品種の薔薇が咲き乱れ、ひどく甘い香りが漂っている。


 レティーツィアはホッと息をついて、唇を綻ばせた。


「ええ。昨夜遅くに。登校は明日からになさるそうですわ」


「そうか」


 ラシードが「遅かったな。アイツ。国に報告するだけで、こうもかかるか?」と眉を寄せる。


「オレは五日も前に、学園島に帰ってきたのにな」


「さぁ、わたくしには……」


 あやふやに笑うと、ワゴンの上の手つかずのランチを一瞥し、ラシードがそっと息をつく。

 しかし、すぐにその頬を引き締めると、レティーツィアを真っ直ぐに見つめた。


「シュトラールはどう動くのか……聞いたか?」


「……いいえ。わたくしはまだお会いできておりませんの」


 きっぱりと首を横に振ると、「そうか……」とラシードが再度息をつく。


「リアムのところは様子見らしいぞ。基本的には、六聖と六聖が選びし世界の王に従えという判断だそうだ。その中で、エメロードの行く末を見極めよと、エメロード王は仰せらしい」


「……統一の仕方について、ですか」


「そのとおりだ」


 真の王たる者が現れし時、再び六聖――聖女は降臨する。

 聖女と聖女が抱く聖剣を手にした者が、世界の覇者となる。

 そして、その王のもと六国は統一され、ようやく世界が完成する――。


 予言にあるのはそれだけだ。


 世界がどのように統一されるかは、明確にされていない。

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