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 プレイヤーの意思が反映されているにしろ、いないにしろ、このゲームのキャラクターなら、はたしてこれほどのシナリオ無視をしでかすだろうか?


(乙女ゲームなのに、キャラクターとの恋愛を一切せずに、物語の終盤に起きるはずの事件を起こしてしまうなんて……!)


 そんな――乙女ゲームを根本から否定するような真似をするだろうか?


「……っ……」


 冷汗が背中を滑り落ちてゆく。


 考えられることは――一つ。


(彼女も私と同じ……転生者なのかもしれない……)


 ゲームを進めなければ、王家に伝わる神話の続きは出てこないし、彼女が六聖であることも、六聖としての覚醒条件もわかるわけがない。

 春の段階でそれを知っていて、強引に発動してしまえるということは――ゲームについての知識があるとしか思えない。


 だとしたら――クリスマス前後であるはずの覚醒を、今やってのけた目的はなんだ!?


「……嘘よね……?」


 震えが全身を這い上ってくる。


「考えすぎだと……言って……!」


 聖女と聖女が抱く聖剣を手にした者が、世界の覇者となる。

 もう誰も、マリナを無視できない。ないがしろにはできない。


 なぜなら彼女は――皇子たちの、彼らの国の、世界の命運を握っている。


 その彼女が、六聖という絶対的な立場でもって皇子を己のものにすることを選択したのだとしたら――!?


 甘く切ない恋などする必要がない。


 彼女はただ、選ぶだけでいいのだ。


「……ッ……!」


 レティーツィアは両手で顔を覆い、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。


「……やめて……」


 悪い方向に考えすぎだと言ってほしい。


 心配のしすぎたと笑ってほしい。


 誰か。誰か。


「……やめて……お願い……」


 リヒトには、誰よりも幸せになってほしいのだ。


 将来、国を背負うという重責を担うからこそ、心から愛した人と一緒になってほしい。


 愛し愛される――最高の伴侶とともに在れば、どんな困難も乗り越えられると思うから。


 だからこそ、シナリオどおり進んでほしかった……!


 マリナと素敵な恋をしてほしかったのに……!


 心を重ねることなく、六聖と六聖に選ばれし世界の覇者なんて――そんな結ばれ方だけは、絶対にしてほしくない。そんなものは、政略結婚よりひどいではないか。


「っ……殿下……!」


 リヒトだけではない。どの皇子にも、不幸なめに遭ってほしくはない。


 だけど、こんなにも心が震えるのは――。


「ああ、殿下……! リヒト殿下……!」


 大切な人。


 大好きな人。


 リヒトのことだけを、一心に想う。 


「お願い……!」


 レティーツィアは神に祈るように、両手を固く握り合わせた。



「どうか……傷つけないで……!」



 

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