20

「申し訳ございません。わたくしには、自身の言の根拠を提示することができません」


 尊き方々をぐるりと見回して、声を上げる。


「しかし、光が溢れたのは、六聖を祀る聖堂がある場所です」


「――!」


 その言葉に、その場にいた全員が驚愕する。

 リヒトも愕然とした表情で、レティーツィアを見つめた。


「レティーツィア……。お前……どうしてそれを……」


 神話の続き――六聖の予言は、王家だけに伝わるもの。本来ならば、レティーツィアが知るはずはない。

 加えて、聖堂がある森は一般生徒の立ち入りが禁じられている。聖堂を囲むように張り巡らされている魔道具による柵は、尊き方々しか解除できないと聞いている。


 知ることができないはずのことを、知っている――。


 レティーツィアはゴクリと息を呑むと、お腹の前で両手を握り合わせた。


「……わたくしは、世界に伝わる神話の続きを存じ上げております。王家のみに伝わっている、六聖の予言を」


「……! なぜ!」


 セルヴァが鋭い視線をリヒトに向ける。


「リヒト! 君が教えたのか!? 婚約者と言えど、それは……」


「いいえ! 違います!」


 激しく首を横に振って、強く否定する。それだけは――勘違いしてもらっては困る。


「違います! わたくしが独自に調べたのです! 神話のルーツが知りたくて!」


 リヒトは関係ない。レティーツィアはセルヴァを見つめて、きっぱりと言った。


「世界六国はそれぞれ――伝統や文化、風習、法律や政治、通貨や経済のしくみにいたるまで、大きく違います! それなのに、国の成り立ちの神話と言語は同じ! それが不思議で……! ありとあらゆる文献を読み漁り――調べましたの!」


「しかし、王家のみに伝わる話だ。売られている本に、書いてあるはずが……」


「いいえ! それも違います! わたくしがそれを知ったのは、先祖の手記です!」


 瞬間、イザークがハッと息を呑む。


「……! そうか……! アーレンスマイヤー公爵は……!」


「ええ! わたくしの先祖は王族の人間です! 八代遡った王の弟君でした! それも次男! 王位継承順が低い者ならば教わることもないでしょうが、兄上の王がその御位につかれた時は、まだ王に御子は生まれておりませんでした。わたくしの先祖は、一時皇太子も務めております。ですから……」


「それなら、間違いなく教わっていたでしょうね。」


 イザークの言葉に、セルヴァが口を噤む。


 それは嘘ではない。レティーツィアは実際に神話を調べた過去がある。


 しかし、ただの伝説ではないと確信が持てるのは、前世の記憶があるからだ。


(それは……言えないけれど……)

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