19
「――ッ!?」
ラシードに、レティーツィアのあとを追ってきたエメロードの皇子・リアムに、その側近のルーファス、そしてリヒトとともにいたイザーク、キュアノスの皇子・クレメンスに、側近のアレクシス。ヴェテルの皇子・セルヴァ――その場に集まった全員が、息を呑む。
「六……聖……!? 六聖だと!?」
「まさか! あれはただの伝説で……」
運動着姿のアーシムも、こちらに走ってくる。
リヒトの制服を握る手に力をこめ、レティーツィアは全員を見回した。
「間違いありません! あれは――六聖ですわ!」
六聖とは、六元素の力をその身に宿した聖女のことだ。
神話によると、混沌だけがあった世界に六聖が降臨し、聖なる剣で大地を六つに切り分け、並び変えて、元素の力を六つの大地に一つずつ埋め込んで、世界六国を作ったのだという。
世界に六元素に満ち、それは眩い光を、清らかな水を、爽やかな風を、豊かな大地を、変幻自在な炎を、癒しの闇を生み出した。
それらは、世界を構築するのに――人が生きるのに必要なもの。どれか一つでも欠ければ、たちまち世界は滅びてしまう。六世は、世界六国は決して争わず、互いに助け合い、補い合い、ともに歩んでゆくようにと定めた。それによって平和と秩序がもたらされたとされている。
ここまでは、誰もが知っている。幼いころ、寝物語に必ず聞かされる――世界の神話だ。
しかし――実はこの神話には続きがある。
六聖は、優れた六人の男を選び、世界六国の玉座に据えた。
六人の男はともに、一国を治めるにはふさわしい。だが、世界を治めるには足りない。
世界を六つに分けたのは、一人で世界を治められる者がいなかったからだという。
六元素をすべてを司る一つの国を、治められるだけの人間は存在しないのだと。
『だが、いずれ現れる』
六聖はそう予言して、消えたのだそうだ。
『真の王たる者が現れし時――再び六聖は降臨す』
その時、聖女と聖女が抱く聖剣を手にした者が、世界の覇者となる。
そして、その王のもと六国は統一され、ようやく世界が完成するのだという――。
「……っ……」
レティーツィアは呼吸を整えると、そっとリヒトから離れて姿勢を正した。
このゲームの名は『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』。
そう――。つまり、聖剣を抱く聖女――六聖とは、主人公であるマリナ・グレイフォード。
彼女は『世界』の導きによって、この学園にやってくる。
そして――『真の王たる者』と出逢い、世界を揺るがす恋をするのだ。
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