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「――ッ!?」


 ラシードに、レティーツィアのあとを追ってきたエメロードの皇子・リアムに、その側近のルーファス、そしてリヒトとともにいたイザーク、キュアノスの皇子・クレメンスに、側近のアレクシス。ヴェテルの皇子・セルヴァ――その場に集まった全員が、息を呑む。


「六……聖……!? 六聖だと!?」


「まさか! あれはただの伝説で……」


 運動着姿のアーシムも、こちらに走ってくる。


 リヒトの制服を握る手に力をこめ、レティーツィアは全員を見回した。


「間違いありません! あれは――六聖ですわ!」


 六聖とは、六元素の力をその身に宿した聖女のことだ。


 神話によると、混沌だけがあった世界に六聖が降臨し、聖なる剣で大地を六つに切り分け、並び変えて、元素の力を六つの大地に一つずつ埋め込んで、世界六国を作ったのだという。


 世界に六元素に満ち、それは眩い光を、清らかな水を、爽やかな風を、豊かな大地を、変幻自在な炎を、癒しの闇を生み出した。


 それらは、世界を構築するのに――人が生きるのに必要なもの。どれか一つでも欠ければ、たちまち世界は滅びてしまう。六世は、世界六国は決して争わず、互いに助け合い、補い合い、ともに歩んでゆくようにと定めた。それによって平和と秩序がもたらされたとされている。


 ここまでは、誰もが知っている。幼いころ、寝物語に必ず聞かされる――世界の神話だ。


 しかし――実はこの神話には続きがある。


 六聖は、優れた六人の男を選び、世界六国の玉座に据えた。


 六人の男はともに、一国を治めるにはふさわしい。だが、世界を治めるには足りない。


 世界を六つに分けたのは、一人で世界を治められる者がいなかったからだという。


 六元素をすべてを司る一つの国を、治められるだけの人間は存在しないのだと。


『だが、いずれ現れる』


 六聖はそう予言して、消えたのだそうだ。


『真の王たる者が現れし時――再び六聖は降臨す』


 その時、聖女と聖女が抱く聖剣を手にした者が、世界の覇者となる。


 そして、その王のもと六国は統一され、ようやく世界が完成するのだという――。


「……っ……」


 レティーツィアは呼吸を整えると、そっとリヒトから離れて姿勢を正した。


 このゲームの名は『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』。


 そう――。つまり、聖剣を抱く聖女――六聖とは、主人公であるマリナ・グレイフォード。


 彼女は『世界』の導きによって、この学園にやってくる。


 そして――『真の王たる者』と出逢い、世界を揺るがす恋をするのだ。


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