18

(もしかして、私はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない……!)


 なんてことだろう。なぜ、それについて一度も考えなかったのか。


 ――!


「おい……あの場所は……!」


 ラシードが光を見て、顔色を変える。


 この場で、何が起きているのか正確に把握できている者は、レティーツィアだけだろう。


 しかし、世界六国の皇子とその側近だけは、少なくとも


「ッ……!」


 ラシードが素早く身を翻して、走り出す。

 レティーツィアも教師に一礼すると、そのあとを追った。


(ああ、馬鹿……! 本当に馬鹿……! 確認する機会はいくらでもあったのに……!)


 今さら悔やんでも仕方がない。ことは起こってしまったのだから。


 わかっているけれど――後悔が止まらない。


(ああ、リヒト殿下……!)


 大切な人を想う。


 幸せになっていただきたい。


 誰よりも、幸せになっていただきたいのに――!


「レティーツィア!」


 階段を下り切った瞬間――心を占めていた人の声が耳を打つ。

 ハッとして視線を巡らせて、こちらに駆けてくるリヒトの姿を認める。


「っ……!」


 刹那に、胸が熱くなる。苦しいほどに締めつけられて――レティーツィアは身を震わせると、両手を伸ばした。


「リヒト殿下!」


 大切な――大切な人。


(ああ、どうか……! 私に、この方を守る力をくださいっ……!)


 そのためならば、なんでもしてみせるから!


 どんなことでも、やり遂げてみせるから!


「レティーツィア!」


「六聖ですっ……!」


 リヒトの胸に飛び込むなり、叫ぶ。

 リヒトが大きく目を見開く。


「なっ……!?」


「六聖――聖剣を抱く聖女ですわ! 殿下!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る