16

 そんなことが許されるのだろうか? 許されていいのだろうか?


 呆然と手の中のクレープを見つめて――レティーツィアはハッとして身を震わせた。


「あっ……!? ああっ!? にゃ、にゃんこが~!」


 クリームの山から顔を覗かせていたにゃんこの姿がない。


 勢いよく顔を上げると、リヒトが親指で口もとのクリームを拭いながらしれっと言う。


「可愛すぎて食えなかったんだろう? 代わりに食ってやったんだ。感謝して敬え」


「ええっ!? た、たしかに、食べるのを躊躇ってはいましたけれど……」


 しかし、それはいらないという意味ではないのだけれど。


(でも、それを今さら言っても……もう遅いわけだし……)


 こんな些細なことを指摘して、相手に『申し訳ない』などと思わせてしまうのも――それはそれでどうなのだろう。うーんと考えていると、しかしエリザベートがいとも簡単に、それを口にする。


「駄目ですよぅ、殿下。勝手に食べちゃ。女の子は、可愛いと美味しそうが両立するんです。そして、可愛いと美味しいをちゃんと一緒に堪能するものなんですから」


「そうなのか?」


「ええ。可愛いからこそ美味しそうにも見えるんです。そういうの、わかりませんか?」


「可愛いからこそ、美味しそうに……?」


 エリザベートの言葉を繰り返して、リヒトがレティーツィアを見る。


 そして何やら考えると――唇のクリームの残滓をペロリと舐めて、凶暴な笑みを浮かべた。


「……ああ、それはわかるな」


「――っ!」


 瞬間、心臓がものすごい音を奏でる。


(エッッッッッッッッッッッチ!)


 なんて破壊力の笑みだろう。正直、鼻血を噴かなかったのは奇跡だと思う。


 しかし――心臓へのダメージは甚大で、エリザベートとレティーツィアは両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。


「は、反則……! 反則です……! なんですか? あの色香は……! と、尊さで、心臓が口からまろび出るかと……!」


「も……萌えすぎて……は、禿げそう……!」


「へぇ? 存外、器用ですねぇ。お二人とも」


 イザークが「なかなか面白い身体の構造をなさっているようで」と小馬鹿にしたように笑う。


 しかし、どれだけ馬鹿にされようと、反論する気も起きない。


(ここここここのエッチな笑みにまったく無反応でいられる人間がいるなら、それはその人がおかしいのよ! 私は……無理! 本当に無理……! ああ、尊いっ……!)

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