15

「…………」


 昨日のお茶会のことが脳裏をかすめて、チクリと胸が痛む。


 あれでまた、主人公の印象は悪くなってしまった。


 状況は――間違いなく最悪だ。


 リヒトに心から想う人と幸せになってもらうには、どうしたらいいのだろう?

 ここからマリナとの関係を逆転させる起死回生の一手など、はたしてあるのだろうか? 


 あるのであれば、一刻も早くそれを見つけなければ。


 リヒトを――誰よりも幸せにするために。


「……っ……」


 だが、そう思う一方で、こうしてリヒトとすごす時間を失いたくないとも思ってしまう。


 いつまでも、その金の瞳に自分を映していてほしい。

 いつまでも、その大きく優しい手で髪を撫でてほしい。

 いつまでも、リヒトの隣に並ぶのは自分であってほしいと――。


「ッ……!?」


 そっとため息をついた瞬間、突然クレープを持つ手を強く引っ張られる。

 ギョッとして目を見開くと同時に、リヒトの神がかり的に美しい顔がすぐ目の前に。


「……っ……!」


 レティーツィアの食べかけのクレープに、リヒトがかぶりつく。


 触れるほど近い――目の前の薄くて形のよい唇に、セクシーな歯並びに、一瞬覗いた舌に、ボッと顔に火がついた。


「なっ……!? な……な……な……!?」


「……ん。かなり甘いな」


 リヒトがわずかに眉を寄せる。


 そんな表情までもが――美しい。


「…………」


 あまりのことに頭の中が真っ白になって、言葉が出ない。


(ま、睫毛長っ……! 肌……えっ!? 肌……どうなってるの!? このキメ細やかさは何!? なめらかで、透明感がエグい……。本当に、吸い込まれそうなんですけど……。いえ、違う。今、気にするべきは、それじゃない……。しっかりして! 私!)


 動きが鈍くなっている脳みそを叱咤しつつ、クレープを凝視する。


(な、何? 今の……。めちゃくちゃエッチ……。殿下がエッチすぎた……! いや、違う。そうでもなくて……! か、間接キ……!? これって間接キ……ええっ!? ちょ……ちょっと待って!? ここに口をつけろと……!? そ、そういうことになるよね!? こ、これを、さらに食べ進めるためには、殿下が口をつけたところに、わ、私の口を……うううう嘘でしょ!?)

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