12
リヒトがため息をついて、なだめるようにレティーツィアの頭をポンポンと叩く。
レティーツィアはむすっとむくれたまま、小さくため息をついた。
「……とにかく、小説は高尚なものだから、女性には書けないなどという馬鹿みたいな概念を取っ払いたいのです」
そうして――一つ一つ、今ある固定概念をぶっ壊したい。
もっと自由に、本を――小説を楽しむことができるように。
「そういう固定概念がある理由の一つに、本が稀少性の高いひどく高価なものだという現実が大きく関わっていると、わたくしは思うのです。ですから、印刷技術を確立することによって、まずは『本の稀少性』を崩したい!」
本を誰もが気軽に手に入れられるようになれば――それらも必ず変わってくる。
「小説はエンターテイメント。本を開くだけで、さまざまな世界へ行ける。部屋にいながら、オペラや劇を観ているかのように物語を楽しむことができるのです。泣いて、笑って、怒って、震えて、興奮して――感動する。これ以上に素晴らしいことがありますか?」
レティーツィアはそう言って――ふと手の中の食べかけのクレープを見つめた。
「ああ、そうですわね。このクレープと同じですわ」
「……! クレープと?」
「ええ。貴族がドレスアップして、テーブルについて、優雅に楽しむ――パティシエが高級な材料をふんだんに使って作るものだけが、スイーツとして『正しい』なんてことはありません。もしも、スイーツはそうあるべきだなどという固定概念が存在するのであれば、それは今すぐぶち壊すべきですわ!」
可愛くて未だに食べられないにゃんこのマシュマロを、ちょんと指でつつく。
「リヒト殿下の馬の食事より安くても、きゅんとするほど可愛くて、美味しい。友達と一緒にはしゃぎながら食べるのも、また格別です。これがスイーツとして『間違い』だと仰る方には、同情を禁じえません。この美味しさを知らないだなんて――あるいは理解できないだなんて、その方は本当にお可哀想」
「……そうですね。たしかに、優劣をつけられるものではありませんね」
「ええ、そう。『どちらも素晴らしい』――それでいいのです!」
エリザベートの同意に力を得て、レティーツィアはタタッと先駆けすると、勢いよく三人を振り返る。
「ですから、よけいな固定概念も付加価値もすべて取り払って、誰が書いたなんて関係ない。作者の職業や性別や年齢にかかわらず、面白いものには平等に光を当てて、そうして生まれるエンターテイメントを、誰もが気軽に手にできるようにしたい!」
そのまま三人をグルリと見回すと、にっこりと笑った。
「これ、わたくしの野望なのです!」
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