「それは、何に役立つものなんだ?」


「ええと……それは……」


 レティーツィアは少し考え、ピッと人差し指を立てた。


「文学の敷居と、本のお値段を下げたくて……」


「……! 文学の……敷居?」


「本のお値段を……ですか?」


 思いもしなかった言葉なのだろう。リヒトとエリザベートがぱちぱちと目を瞬く。

 レティーツィアは、クレープのにゃんこを見つめたまま大きく頷いた。


 この世界は、光・闇・地・火・風・水の六つの元素から成り立っている。


 前世の世界でも、科学が発達する前に、一つの考え方として唱えられていた六元素論。


 この世界では、それこそが真実で、大前提だ。


 そして、その元素の力を操るのが『魔法』だ。


 しかしそれは、ほうきで空を飛んだり、呪文を唱えて敵を討ち果たしたりというのとは違う。

 この世界での『魔法』は不思議な力で起こす『奇跡』ではなく、前世の世界での『科学』に置き換えられるものだ。


 具体的に説明すると、まずは『魔法』を使うことのできる素養――『魔力』を持った者が、世界に満ちている元素の力を集め、留めるところから。


『魔力』は生まれついてのもので、努力で身につけられるようなものではない。それもあって、『魔力』を持たない者にとって、その原理を完全に理解することはとても難しいのだけれど、とにかく『魔術師』と呼ばれる彼らは、世界に満ちている元素の力を集めることができる。


 その元素の力を使って動くさまざまな道具を作るのが、『魔道師』と呼ばれる人たち。


 彼らも生まれつき『魔力』をその身に宿した人たちで、元素の力を理解し、深く読み解き、生活に必要な道具――『魔道具』をを作ることができる。


 前世の世界に置き換えるなら、技術そのものを開発するのが『魔術師』、その技術を使って、家電製品を作るメーカーさんが『魔道師』といったところだろうか。


 世界が違えど、基本的に人の営みは同じ。必要となるものもさほど大差がない。

 だから、根本の原理が違うだけで、前の世界にもあったものがたくさんある。


 たとえば、部屋の壁のスイッチを押せば、電気が灯る。だけど、発電・送電技術があるわけじゃない。光の元素が込められている『魔道具』を天井に設置しているから、明かりがつく。

 下水道はあるけれど、上水道はない。浄水施設もない。でも、常に家には綺麗な水が湧く。水の元素が込められた『魔道具』があるからだ。

 ガスが引かれているわけではないけれど、キッチンにはコンロやオーブンに近いものがある。それも、火の元素が込められた『魔道具』だ。


 もちろん、一つだけではなく、複数の元素の力をが込められた『魔道具』も存在している。


 元素だけでは説明がつかない――パソコンやスマホなど、複雑なものはもちろんないけれど、生活家電はわりと、前の世界と似たようなものが存在している。

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