にぃっと唇の端を持ち上げると、リヒトが楽しげに目を細めた。


「……わかった」




          ―*◆*―




活字かつじ……? って、なんですか?」


 エリザベートがクレープを差し出しながら、小首を傾げる。


 食べ歩けるように、円錐状にくるくると巻かれたクレープ。たっぷりと盛られたクリームと、色鮮やかなフルーツソース。そして、にゃんこのマシュマロ。

 ちょうど、にゃんこがクリームの山から顔を出しているような可愛らしいデコレーションに、心がときめく。


 レティーツィアはほうっと感嘆の息をついて、それを受け取った。


「これ、やっぱり……歩きながら食べるのよね?」


「そうですよ。もしかして、はじめてですか?」


「え、ええ……」


 レティーツィアになってからは、したことがない。

 外で、ものを食べながら歩くなど、淑女のすることではないと躾けられていたからだ。


(でも、今日はやっていいんだ……!)


 逸る気持ちのままに思いっきりかぶりつきたかったけれど、その前にマシュマロにゃんこと目が合ってしまう。う。可愛い。

 これは……食べづらい。むむむむとにゃんこをにらんでいると、びっくり眼でメニュー表を見ていたリヒトが、レティーツィアに視線を移す。


「俺も知りたい。活字とはなんだ」


「あ……そうでした」


 イザークが財布をしまったのを確認して、ゆっくりと歩き出す。


 白い石造りの建物が並ぶキュアノス風の町並みは、見ているだけでとても楽しい。


「ええと、金属製の字型のことですわ。簡単に説明しますと……殿下も、エリザベートさんのお父さまも、印章いんしょうをお持ちでしょう? それの文字版といった感じでしょうか」


「文字の印章?」


「そんなようなものと思ってくださいませ。それを組み合わせて文章を作り、インクを載せて、紙に写すのです」


 それが――活版印刷。


 まだこの世界にはない技術だ。


「まだ構想段階でしかないのですが、それを技術として確立したくて……」

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