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その言葉でようやく我に返り、レティーツィアはイザークに詰め寄った。
「え? ああ、すみません。今朝、突然『同行したい』を申されまして……」
「っ……!」
いけしゃあしゃあとのたまうイザークの胸倉をつかんで、引き寄せる。
「平然と嘘をつくものではなくってよ! あんなスーツまで仕立てておいて……! どうして黙っていたの……!」
およそ王族らしくない――貴族ですら選ぶことはなさそうな、装飾なしのフロック・コート。しかも、黒だ。シュトラールの正装は白のため、あらたまった場所では絶対に着られない色。この街歩きのためだけに仕立てたとしか思えない。
レティーツィアの言葉に、イザークが悪びれる様子もなく頷く。
「はい、嘘です。レティーツィアさまから相談を受けた時点で、自分も行くと仰ってました。僕としても、承服しかねますと申し上げたんですけど……」
「あ、当たり前でしょう! 一国の皇子に街歩きをさせるだなんて……!」
「そうですね。でも、僕はリヒト殿下の従者ですから、命令には逆らえないんですよ」
――よく言う。イザークは、リヒトを止められる唯一の者だ。その自負もあるくせに。
レティーツィアはイザークをにらみつけたまま、はぁ~っと息をついた。
「……わたくし、昔からお前のそういうところ、本当に嫌いだわ」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよ。僕はお慕いしていますよ。レティーツィアさまは本当に面白い方ですし」
イザークが爽やかに笑う。――だから、そういうところだ!
「そ、それがいい意味でないことぐらい、わからないとでも思って!?」
「あ、大丈夫です。さすがにそこまでは馬鹿にしてないです」
「イザーク!」
「まぁまぁ、時間がもったいないんで、そろそろ行きませんか?」
「~~~~っ!」
ヘラヘラと笑うイザークを、渾身の力でにらみつける。ああ! リヒトの側近でなかったら、不敬罪で投獄してやるのに!
「…………」
ぷりぷりしているレティーツィアを黙ってみていたリヒトが、ふと――レティーツィアの後ろで未だ硬直したままのエリザベートに目を留める。
「お前は……たしか、エリザベート・アルディだったか」
「は、は、は、はいいいっ!?」
リヒトが自分の名前を知っているなど、思いもしなかったのだろう。瞬間、エリザベートが素っ頓狂な声を上げて飛び上がり、あたふたとお辞儀をした。
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