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「もももも申し遅れました! エリザベート・アルディと申します! え、エメロード出身の二年生で……ち、父は貿易商を営んでおります。おおおおお目にかかれて、光栄です……!」
「……そう固くなるな。先日は、レティーツィアのために走ってくれて助かった。礼を言う」
リヒトが穏やかに目を細める。
瞬間、エリザベートの目からボロッと大粒の涙が零れた。
「そ、そんな……! も、もったいないお言葉です……! 殿下……!」
そのまま両手で顔を覆って、泣き出してしまう。
イザークが「あ~ぁ……」とため息をついて、リヒトを見上げた。
「泣かせちゃダメじゃないですか。殿下」
「……俺は何もしていない」
「……!」
その言葉に、思わず目を見開く。
(俺……?)
レティーツィアは、ポカンとしてリヒトを見上げた。
今、『俺』と言ったか。リヒトの一人称は『私』のはずなのに――?
「そ、そうです……! リヒト殿下は何も悪くありません……! 殿下の尊さに耐えられないこの目が悪いんですっ……!」
エリザベートがボロボロと涙を零しながら、叫ぶ。
「え……? 今、君の目に何が起こってるの?」
「だ、大丈夫……? エリザベートさん……」
ハンカチを差し出すと、エリザベートがベソベソ泣きながらとんぼ眼鏡を外す。
「大丈夫です……! 十六年間生きてきて、間違いなく今が一番絶頂ですからっ……! ただ、そのせいでちょっと汁が垂れ流れてしまっておりますが、どうかご容赦くださいっ……!」
「し、汁って……。大丈夫ならいいのだけれど……」
しゃくりあげるエリザベートの背中を優しくさすっていると、イザークがなんだか感心した様子で「ははぁ~……これはまた……」と呟いた。
「面白い
「……気のせいかしら? 完全にいい玩具と見定めたような口調だけれど」
「まさか。穿ちすぎですって。そんなひどい男じゃないですよ? 僕は。ねぇ? 殿下」
「……悪いが、俺にもそうとしか聞こえなかった」
リヒトの言葉に、イザークが「え~?」と不満げな声を上げる。
――まただ。
レティーツィアはふと口を噤んで、チラリとリヒトを見上げた。
(また、俺って……。それに、いつもとなんだか様子が……)
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