20
「――そうか。それならよかった」
ひどく嬉しそうなマリナの言を遮って、リヒトがスラリと立ち上がる。
「イザーク。彼女を医務室へ。火傷をしていないかなど、念のため怪我のチェックを。制服は新しいものを一式用意するように」
「――は」
イザークが頭を下げる。
それを一瞥し、リヒトが素早くきびすを返す。
マリナは愕然として、汚れた手をリヒトへと伸ばした。
「えっ!? ま、待ってください! あ、あの……リヒトさまは……!」
「――私はここで片づけの指示しなくてはならない。ここにいた者たちに、騒がせてしまった詫びも必要だ」
「で、でも……! 私、リヒトさまと……!」
「私と――? なんだ? 何かほかに目的があるのか? 君はもしかして、私と一緒にいるために騒ぎを起こしたのか?」
リヒトが肩越しにマリナを振り返る。
彼女を映した金の双眸に、凶暴な光が宿って――マリナは顔色を失くして首を横に振った。
「ち、違います! それに、騒ぎを起こしたのは私じゃなくて、レティーツィアさまが……」
「だったら、イザークとともに医務室へ。イザークのほうが君に対しての適切な処置と充分なケアができる。なにせ私は、医務室の場所もろくに知らないからな」
それだけ言って、リヒトが再びマリナに背を向ける。
「大丈夫だ。この件をうやむやで済ます気はない。あとの話は、ちゃんとレティーツィアから聞いておく」
「っ……! レティーツィアさまが本当のことを言うはずがありません!」
「そうかもしれない。だが、君が嘘をついていないという保証もない。――条件は同じだ」
マリナがグッと言葉を詰まらせる。
「で、でも……!」
「君の言い分は、すでにイザークが聞いている。同じように、レティーツィアからも話を聞く。それでこそフェアだろう? ――安心していい。婚約者だからといってレティーツィアの話を鵜呑みにしたりはしない。きちんと双方の意見を精査すると約束しよう」
「…………」
――完璧な対応だと思った。完璧に、彼女の思惑を封じてしまった。
「では、マリナ・グレイフォードさん。こちらへ」
「……ッ……!」
マリナが悔しげに奥歯を噛み締める。
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