19
「純粋に、お茶会を楽しんでいただけ……?」
「ええっ! だって私、今日を楽しみにしていたんです! このお茶会は、シュトラール皇国主催……! リヒトさまが、みなをもてなしてくださるって……!」
マリナがひときわ大きな声で叫んだ瞬間、中庭の入り口方向でざわめきが起こる。
レティーツィアは――そしてマリナも、ハッとしてそちらに視線を向けた。
「……! 殿下……!」
リヒトが足早にこちらへと歩いてくる。
イザークが素早くリヒトに駆け寄り、そっと耳打ちをした。
「…………」
金の双眸が、マリナの前に落ちている銀のトレーを映す。
レティーツィアは奥歯を噛み締めた。
「あ、ああ……! ああ……!」
マリナの目から大粒の涙が零れる。
「こ、こんな……ぐちゃぐちゃになった姿を……リヒトさまに見られてしまうなんて……! 酷い! 酷い! レティーツィアさま、酷いっ……! そんなに私が嫌いなんですか!? 私、何もしてないのにっ……!」
その涙に濡れた目で、レティーツィアを激しくねめつける。
「――レティーツィア」
近づいてきたリヒトが、ひどく硬質な声でレティーツィアを呼ぶ。
レティーツィアはビクッと身を震わせて――目を伏せた。
「……不注意で、ぶつかってしまったことは……事実ですわ……」
――それ以上、言いようがない。
これが狂言であることは、もうイザークがリヒトに報告したはずだ。
(殿下の中の……彼女の印象がこれ以上悪くなることは……避けたかったのに……)
うまくいかない。本当に――うまくいかない。
「っ……! あれをぶつかったって言うんですか!? 過失だったと!? 嘘つきっ!」
俯くレティーツィアに、マリナがさらに咬みつく。
リヒトは一つ息をつくと、マリナの前に膝をついた。
「マリナ・グレイフォードだったか。……大丈夫か? 怪我は?」
「――!」
マリナが顔を輝かせる。レティーツィアは息を詰め、大きく目を見開いた。
ズキンと――胸が引き裂かれてしまいそうなほど痛む。
レティーツィアは震える手で胸もとを押さえた。
「っ……! は、はい! 怪我はありません! でもっ……!」
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