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「純粋に、お茶会を楽しんでいただけ……?」


「ええっ! だって私、今日を楽しみにしていたんです! このお茶会は、シュトラール皇国主催……! リヒトさまが、みなをもてなしてくださるって……!」


 マリナがひときわ大きな声で叫んだ瞬間、中庭の入り口方向でざわめきが起こる。

 レティーツィアは――そしてマリナも、ハッとしてそちらに視線を向けた。


「……! 殿下……!」


 リヒトが足早にこちらへと歩いてくる。

 イザークが素早くリヒトに駆け寄り、そっと耳打ちをした。


「…………」


 金の双眸が、マリナの前に落ちている銀のトレーを映す。


 レティーツィアは奥歯を噛み締めた。


「あ、ああ……! ああ……!」


 マリナの目から大粒の涙が零れる。


「こ、こんな……ぐちゃぐちゃになった姿を……リヒトさまに見られてしまうなんて……! 酷い! 酷い! レティーツィアさま、酷いっ……! そんなに私が嫌いなんですか!? 私、何もしてないのにっ……!」


 その涙に濡れた目で、レティーツィアを激しくねめつける。


「――レティーツィア」


 近づいてきたリヒトが、ひどく硬質な声でレティーツィアを呼ぶ。

 レティーツィアはビクッと身を震わせて――目を伏せた。


「……不注意で、ぶつかってしまったことは……事実ですわ……」


 ――それ以上、言いようがない。

 これが狂言であることは、もうイザークがリヒトに報告したはずだ。


(殿下の中の……彼女の印象がこれ以上悪くなることは……避けたかったのに……)


 うまくいかない。本当に――うまくいかない。


「っ……! あれをぶつかったって言うんですか!? 過失だったと!? 嘘つきっ!」


 俯くレティーツィアに、マリナがさらに咬みつく。


 リヒトは一つ息をつくと、マリナの前に膝をついた。


「マリナ・グレイフォードだったか。……大丈夫か? 怪我は?」


「――!」


 マリナが顔を輝かせる。レティーツィアは息を詰め、大きく目を見開いた。


 ズキンと――胸が引き裂かれてしまいそうなほど痛む。

 レティーツィアは震える手で胸もとを押さえた。


「っ……! は、はい! 怪我はありません! でもっ……!」

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