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 今回のお茶会は、会場が三つの中庭に薔薇園、温室のある植物園、貴族専用カフェテラスとかなり細分化されている。

 みなが好みに合った場所でゆったりとくつろげるようにと、場所によって会場の飾りつけやテーブルセッティング、食事形式などがすべて違う。提供される飲みものやスイーツの種類もそれに合わせて考えられているため、やっぱり会場によって違う。


 ここは東側の中庭。会場もテーブルセッティングも、しっとりと落ち着いた和風――つまりアフェーラ風だ。提供される飲みものやスイーツも、アフェーラ風のものばかり。


(でも、この人が手にしていたのって……)


 床で無残な姿を晒しているのは、クリームたっぷりの生ケーキではないだろうか。そして、彼女からは花の香りがする。


(もしかして、エメロードの……)


 思わず唇を噛み締める。――これでは駄目だ。


「どうしました!?」 


 仕切り直したほうがいい。リヒトに近づくきっかけを作りたいなら、協力するから。


 そう――マリナに声をかけようとした瞬間、中庭にイザークの声が響く。レティーツィアはギクリとして身を強張らせた。


(イザーク……!)


 よりにもよって、イザークが来るなんて! このお茶会の運営に携わっている者はほかにもたくさんいるのに。


 イザークがこちらへ駆けてくる。レティーツィアは舌打ちしたい気分で下を向いた。


 ――相手がイザークではだめだ。誤魔化せるはずがない。


「レティーツィアさまが!」


 そんなレティーツィアの思いを知る由もなく、涙に汚れた顔を上げてマリナが叫ぶ。


「私を突然突き飛ばしたんですっ! 私、私……何もしてないのに……!」


「レティーツィアさまが……?」


 イザークがマリナを見る。

 穏やかで柔らかなその目に一瞬鋭い光が走ったのを、レティーツィアは見逃さなかった。


(ああ……もう気づいた……)


 さすがは、リヒトの頭脳だ。レティーツィアはそっとため息をついた。


「以前から、そうなんです! レティーツィアさまは、なぜか私を目の敵にしていて……! 誰も見ていないところで、嫌がらせをするんです……! 私、つらくて……!」


 マリナが再び両手で顔を覆う。


「今日も……私、本当に何もしてないんです……! ただ純粋に、お茶会を楽しんでいただけなのに……! それなのに、突然……!」

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