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 それなら――お願いしてもいいかもしれない。


「ほかにも、何かなさるおつもりなんですか?」


 エリザベートが聞き捨てならないとばかりに、眼鏡をくいっと持ち上げ、身を乗り出す。


「それはやはり、尊き方々にかかわることだったり……?」


「そういうものもあれば、そうでないものもあるけれど、どちらにしてもエリザベートさんはとてもお好きだと思うわ」


 どれもこれも、乙女心がときめくものだから。


 レティーツィアの言葉に、エリザベートが顔を輝かせる。


「もう少し形になったら、また相談に乗ってくださるかしら?」


「もちろんです! 私でよろしければ! わぁ、なんでしょう? ワクワクします!」


 エリザベートが胸の前で両手を握り合わせて、頷く。


 レティーツィアもまたわくわくと心躍らせながら、唇を綻ばせた。


「じゃあ、街歩きの件、リヒト殿下にお話してみるわ」




          ―*◆*―




 それはある意味――想定内のことではあった。


「きゃあっ!」


 トンと背中に何かがぶつかったと感じた瞬間――悲鳴とともに何かをひっくり返したような激しい物音がする。


 レティーツィアはビクンと身を弾かせて、後ろを振り返った。


「ッ……!」


 瞬間、すべてを理解する。

 全身に緊張が走り、レティーツィアはお腹の前で両手を握り合わせた。


「……う……」


 そこに膝をついていたのは、マリナ・グレイフォードだった。


 煉瓦タイルの地面には、ぐちゃぐちゃになったスイーツと無惨に割れた皿とティーカップ。銀のトレーにはほかにもミルクジャグと砂糖入れが載っていたらしく、どちらも倒れて地面を盛大に汚してしまっている。

 チョコレート色の髪もびっしょりと濡れていて、その毛先から雫がポタポタと制服に滴って、紅茶色の染みを作っていた。


 小さく呻いて、マリナが緩慢な動きでレティーツィアを見上げる。

 その――甘いトリュフショコラのような目に、みるみるうちに涙が溢れた。


「ひ、酷い……!」

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