16
それなら――お願いしてもいいかもしれない。
「ほかにも、何かなさるおつもりなんですか?」
エリザベートが聞き捨てならないとばかりに、眼鏡をくいっと持ち上げ、身を乗り出す。
「それはやはり、尊き方々にかかわることだったり……?」
「そういうものもあれば、そうでないものもあるけれど、どちらにしてもエリザベートさんはとてもお好きだと思うわ」
どれもこれも、乙女心がときめくものだから。
レティーツィアの言葉に、エリザベートが顔を輝かせる。
「もう少し形になったら、また相談に乗ってくださるかしら?」
「もちろんです! 私でよろしければ! わぁ、なんでしょう? ワクワクします!」
エリザベートが胸の前で両手を握り合わせて、頷く。
レティーツィアもまたわくわくと心躍らせながら、唇を綻ばせた。
「じゃあ、街歩きの件、リヒト殿下にお話してみるわ」
―*◆*―
それはある意味――想定内のことではあった。
「きゃあっ!」
トンと背中に何かがぶつかったと感じた瞬間――悲鳴とともに何かをひっくり返したような激しい物音がする。
レティーツィアはビクンと身を弾かせて、後ろを振り返った。
「ッ……!」
瞬間、すべてを理解する。
全身に緊張が走り、レティーツィアはお腹の前で両手を握り合わせた。
「……う……」
そこに膝をついていたのは、マリナ・グレイフォードだった。
煉瓦タイルの地面には、ぐちゃぐちゃになったスイーツと無惨に割れた皿とティーカップ。銀のトレーにはほかにもミルクジャグと砂糖入れが載っていたらしく、どちらも倒れて地面を盛大に汚してしまっている。
チョコレート色の髪もびっしょりと濡れていて、その毛先から雫がポタポタと制服に滴って、紅茶色の染みを作っていた。
小さく呻いて、マリナが緩慢な動きでレティーツィアを見上げる。
その――甘いトリュフショコラのような目に、みるみるうちに涙が溢れた。
「ひ、酷い……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます