13

「何か問題が?」


 レティーツィアは小さく肩をすくめた。


「変な意味に捉えてほしくないのだけれど、ヴァイス商会は上流階級向けの取引が中心なの。先ほど、わたくしは『低価格で高品質』と言ったけれど、それは貴族の目線での話で……」


「……!」


「学生街は、身分問わず利用できる『学生たちのためのお店』が立ち並ぶ場所。わたくしも、何度もお茶をしに行ったわ。とくにお気に入りなのが、学生街の南東――アフェーラの文化が色濃く出た場所にあるカフェ。お茶とスイーツがとても美味しくて……」


 それは前世の記憶が戻る前の話だったけれど、今思えば和テイストのものが口に合ったのは、前世からの影響もあったのだろう。


「でも、学生街で文具や日用雑貨を買ったことはないの。お店に入ったことはあったと思うのだけれど……」


「なるほど……。つまり、学生街で求められる質や価格帯がわからないということですか?」


「ええ。そうなの。貴族向けのそれよりは質を落として、そのぶんお安くしたいのだけれど、でも質を落とすにも限度があるはずだし、価格も、わたくしたちが思う『安い』と中流階級や庶民のみなさまのそれとでは大きく違うでしょうし……」


 レティーツィアは「適正がわからなくて……」と呟き、再び肩をすくめた。


「学生街にある二店に卸している商品も、メインターゲットはやっぱり貴族なのよ」


 今取り扱っている商品の一覧を手渡すと、エリザベートがザッと目を通して眉をひそめる。


「あ……。たしかに、このお値段ではちょっと手が出ませんね……。物によっては、うちでも厳しいかもしれません……」


 下手な貴族よりも裕福な新興富裕層でそれなら、よっぽどだろう。


「それでも、わたくしにとっては別段高いというわけではないのよね」


 世界も経済の仕組みも通貨も違うため、こればかりは前世の記憶はまったく役に立たない。


「だけど、尊き方々に憧れる気持ちに貴族も庶民もないわ。むしろ庶民のみなさまのほうが、その気持ちは強いかもしれない」


 別世界の方々だからこそ、手が届かないからこそ、焦がれる――。


 その気持ちは、痛いほどよくわかる。


(私の場合は、そもそも次元から違ったものね……。二次元と三次元……)


 わかるからこそ――身分関係なく楽しめるようにしたい。


 想いに貴賤などないのだから。


「できれば、ほしいと思ったすべての方に手に取っていただけるようにしたいのだけれど……どうしたらいいかしら?」


「そうですねぇ……」

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