12
一瞬ポカンとしたあと、エリザベートがかぁっと顔を赤らめる。
「そ、そんな……リヒト殿下……。ま、学び舎で……?」
そのまま熱くなった頬を両手で包んで、俯き――恥じらう。
(ああ、絶対誤解されてる……。でも、詳細を伏せつつ、それでいて嘘もつかないとなると、ほかにどう言っていいかわからないのよね……)
エリザベートの中で、リヒトはいったい何をやらかしたことになってしまったのだろうか。申し訳ないと思いつつ――訂正はしない。深く追及されたら困るからだ。
「ああ、そうですよね……! 美しい薔薇に囲まれて、お二人きりだったんですもの……! 無粋な詮索をして申し訳ありません……! これ以上は訊きませんし、誰にも言いませんから、どうかご安心なさってください……!」
「え、ええと……あ、ありがとう……」
キラキラと輝く眼差しにひきつった笑いを浮かべて、レティーツィアは早々に話題を変えた。
「そ、それより……エリザベートさん。こちらを見ていただけないかしら」
先ほど手にしていた書類を、エリザベートの前に差し出す。
「アーレンスマイヤー家が出資しているヴァイス商会というものがあるんだけれど、そこでは低価格で高品質な日用雑貨品を取り扱っているの」
エリザベートがとんぼ眼鏡を押し上げて、書類に顔を近づける。
「万年筆やつけペン、インク、ペーパーウェイトなどの文具、タオル、ハンカチーフ、ポーチ、手袋やリボンなどの日用品、六色展開できそうなものがいくつかあったので、試しに学園島のお店に卸してもらおうと思うのだけれど」
「……! 六色展開を……?」
「ええ。この学園島には、ヴァイス商会が取引を行っているお店が三つあるのだけれど……。ケイト、地図を」
ケイトが持ってきた地図を、シーツの上に広げる。
学園島は、島の中心にアニエルタニス学園があり、その周りをぐるりと学生街が取り囲む。
その学生街を取り囲むように、尊き方々の邸宅や貴族たちのタウンハウスが立ち並ぶ。
その高級住宅街を囲むのが、
そして、一番海に近いのが、中流階級・庶民のための学生寮が並ぶ地域だ。
おおよそ国がある方向に住むというのが学園島での暗黙の了解となっているため、学生街も高級住宅街も、南はヤークートの、北はヴェテルの色や文化に溢れている。
シュトラールは北西だ。
レティーツィアは学生街の北西を指し示した。
「学生街に二店、高級住宅街に一店。この高級住宅街のほうはなんの問題もないのだけれど、こちらとこちらの学生街の二店で、実は少し困っていて……」
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