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 これ以上言えば、本格的に怒らせてしまうだろう。これはもう大人しくしているしかない。


(甘えては……いけないのに……)


 しかし、そんな思いに反して――力強く、頼もしく、そして温かく、優しい腕に包まれて、少しずつ心が凪いでゆく。落ち着きを取り戻してゆく。


「…………」


 レティーツィアはゆっくりと目を閉じた。


(幸せになっていただきたいのに……)


 破滅は絶対に回避したい。

 それ以上に、リヒトに誰よりも幸せになってほしい。


 国や政治的な駆け引きのためレティーツィアではなく、本当に愛する人マリナと結ばれてほしい。


 だから、シナリオどおりに進んでほしいのに。


(うまくいかない……)


 それが、何よりももどかしい――。




          ―*◆*―




「もう大丈夫なんですか? レティーツィアさま」


 控えめなノックの音に続いてドアが開き、ケイトが――そしてエリザベートが入ってくる。

 ベッドの上で書類をめくっていたレティーツィアは、「まぁ……」と目を見開いた。


「お見舞いに来てくださったの? エリザベートさん」


「あのあと早退なさったってイザークさまから伺って、心配で……。レティーツィアさま? 何をされているんですか? ちゃんと休んでいないと駄目じゃないですか」


 エリザベートが少しだけ視線を鋭くして、ケイトがベッド脇に用意した椅子に座る。

 レティーツィアは苦笑して、書類をシーツの上に置いた。


「ごめんなさいね。でも、もう大丈夫よ。少し取り乱してしまっただけなの。本当は、早退の必要だってなかったのよ? それなのに、リヒト殿下が……」


 早退しろと言って譲らなかったのだ。


「お元気ならそれに越したことはないですけど、いったい何にそんなに取り乱されたんです?早退させられるってよっぽどだと思うんですけど……」


 エリザベートが小首を傾げる。


(まぁ、当然そこはツッコまれるよね……)


 なんて答えようか。レティーツィアはしばらく考え、なんとか捻り出したそれを口にした。


「で、殿下が……その……いつもなら絶対にしないコトをなさったので……」


「……!」

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