思わず叫び声を上げそうになるのを、両手で口を押さえて堪える。

 その手がガクガクと震え出す。目の前が真っ暗になって――レティーツィアはギュッと目を瞑った。


(ああ、そうだ……! 細部は違うけど、これはイベントスチルにあった光景だ……!)


 場所は薔薇園ではなく温室だったし、膝枕に至るまでの展開もまったく違っている。


 リヒトは、体調を崩していることを周囲に悟られないよう、誰も来ないはずの温室へ行く。

 しかし予想に反して、そこには主人公が。


 主人公はリヒトの顔色の悪さにいち早く気づき、一人で誰にも知られず休める場所を探して出て行こうとするリヒトを止める。


 そして、「膝ぐらい貸せますから、どうか少しでも休んでください。人の目が気になるなら、誰も来ないように私が見張っていますから。どうかお願いします!」と――リヒトを心配して、リヒトのために必死に頭を下げる健気な主人公に心打たれ、リヒトははじめて他人に無防備な姿を晒すのだ。


(シナリオと全然違う……。違うけど、これは……)


 リヒトに体調を崩している様子はないし、シナリオでは主人公に押し切られた形だったが、今はむしろリヒトが能動的に動いていた。何もかもが違う。違うけれど――。


(でも、イベントスチルにそっくりだ……)


 もちろん、目の前の光景もイベントスチルも『膝枕で眠るリヒト』なわけで、似ているのは至極当然の話なのかもしれない。


 だが、ゲームでのリヒトは、レティーツィアに無防備な姿を晒すような真似は絶対にしない。


 レティーツィアはもちろん、イザークにすら弱みを見せたくなかったから、リヒトは誰にも知られず休める場所を探して――温室を目指したのだから。


(どうしてっ……!?)


 両手で顔を覆う。


 ここは、『六聖のFORELSKET(フォレルスケット)~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』の世界だ。それは間違いない。


 それなのに、どうしてシナリオや設定とこうも違うのか。


(どうして!? なぜシナリオどおり進まないの!? 何が悪いの!?)


 わからない。


 いったい何が起きているのか――。


「……? レティーツィア?」


 レティーツィアの様子がおかしいことに気づいたリヒトが、ふと瞼を持ち上げる。

 そして、ハッとした様子で息を呑むと、素早く起き上がった。


「おい……! どうした。何を震えている」

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