(あ、ああ! 願いって……そういうこと!? ね、寝顔を見せてくれるっていう……)


 瞬間、一気に顔が真っ赤に完熟してしまう。


(う、嘘……! そんな……嘘でしょ!? こここここんな幸運、あっていいの!? っていうか、あの発言に引くどころか、叶えてくれるだなんて神すぎない!? えっ!? これって夢でしょ!?夢よね!? いや、夢でいい! 夢でも感謝しかない……!)


 信じられない展開とあたりを包む甘い薔薇の香に、なんだかクラクラしてくる。

 レティーツィアはゴクリと息を呑み、おそるおそる太腿へと視線を落とした。


 爽やかな春の風に、まるで陽光のような金の髪がサラリと揺れる。伏せられた金糸の睫毛は驚くほど長く、薄く開いた形のよい唇はひどく無防備で、こちらをたまらない気持ちにさせる。


 目を閉じると、厳しささえ感じるほど凛々しい眉も、身体がすくんでしまうほどの圧倒的なカリスマ性も和らいで、少しあどけなくなるけれど、首筋や喉仏のラインはしっかり男性で、ドキドキしてしまう。


(あ~~~~! む、無理~~~~~っ!)


 レティーツィアは両手で顔を覆って、天を仰いだ。


「~~~~っ!」


 恐れ多いほどに、麗しい。


(わ、私みたいなモノが見ていいものなの? この神造形……!)


 こんな至近距離から眺めることを許されていいものなのだろうか?

 厳重な警護と管理のもと、美術館などに飾っておくべきものではないのだろうか?


(う、美しすぎるんですけど! 作画がよすぎるんですけど! もう完璧すぎて、逆にそれが欠点っていうか……! ああ、ヤバい……! 最高っ……!)


 思いっきりゴロンゴロンしながら身悶えたいけれど、リヒトの頭が乗っている太腿を動かすわけにはいかない。必死に奥歯を噛み締め、全身を貫く衝動に耐える。


(無理……! 無理……! 尊いがすぎる……! こんなの死んでしまいますっ……!)


 胸が熱くて、痛いほど締めつけられて、息が詰まる。


(すごいっ……! 恥ずかしいけど、めちゃくちゃ嬉しい……! まさか、実際に膝枕で眠るリヒト殿下を見られるなんて……! そんな無防備な姿、主人公だけにしか……)


 瞬間、全身から血の気が引く。

 レティーツィアは大きく目を見開き、愕然としてリヒトを見つめた。


 ああ、そうだ。リヒトがこれほど無防備な姿を見せる相手は、レティーツィアではない。


 はじめて恋をした相手――マリナ・グレイフォードのはず。


「ッ――!」

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