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「確かに、いつもより少し遅いですわね……。何かあったのかもしれませんわ」
時間には限りがあるし、先に食べておいたほうがいいかもしれない。
そう考えて――ふとリヒトへと視線を戻す。そういえば、昼食はどうされたのだろうか? 時間的に、食べてからここに来たということはないだろう。
「殿下? あの、昼食は……」
「待つ間、お前の願いを一つ叶えてやろうか?」
レティーツィアの言葉を遮って、リヒトが唐突に言う。
その思いがけない言葉にレティーツィアは再びポカンとして、その悪戯っぽく光る金の瞳を見つめた。
「わたくしの、願いを……ですか?」
「そうだ。手を出せ」
言われるままに、両手を差し出すと、リヒトがその上にポンと何かを乗せる。
レティーツィアは手のひらの上にコロンと転がったそれを、まじまじと見つめた。
(これは……国章よね?)
それは、制服の襟につけるバッジだった。純金製で、シュトラール皇国の紋章が精緻に彫刻されている。
(これがどうかしたの……?)
思わず首を傾げた――その時だった。
リヒトが素早く横になり、レティーツィアの膝に頭を乗せる。
レティーツィアはギョッとして身を弾かせ、国章を握り締めた両手で口もとを覆った。
「え、ええっ!? で、で、殿下!? な、な、な……!」
再び、耳まで真っ赤に染まってしまう。あたふたするレティーツィアに――しかしリヒトは平然としたものだ。
「――待ち人が来たら起こせ」
目を閉じたままそれだけ言って、そのまま口を噤んでしまう。
「え……!? で、殿下……!? 起こせって……」
太腿に乗せられているリヒトの整いすぎた尊顔を直視することができず、あわあわと視線を彷徨わせつつ言うも――もう返事はない。
レティーツィアは呆然として、宙を見つめた。
(な、何……!? 何が起こってるの!? ひ、膝枕……! 『推し』の頭が膝に……!)
あまりのことに頭の中が真っ白になり、すぐに状況が把握できない。
リヒトの言葉の意味を理解したのは、硬直したままたっぷり一分以上が経過してからだった。
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