3
レティーツィアは眉をひそめ、唇に指を当てて少し考え――首を傾げた。
「そ……そうなるの……でしょうか……?」
「訊いているのは私のほうなのだが」
「わ、わかりません……。たしかに、言われてみればそのとおりなのですが……でもわたくし、ここで殿下のお話ばかりしていますもの……」
意外な言葉だったのか、リヒトがわずかに目を見開く。
「私の?」
「ええ。殿下やほかの尊きみなさまについて、いろいろとお話ししておりますの。ようやく、そういうお話を一緒に楽しめる友人ができまして……」
「今まで、友人とは私の話ができなかったのか? そんなようには見えなかったが……」
リヒトが眉を寄せる。――今までの友人を軽んじているように聞こえてしまっただろうか?
そういう意味ではない。レティーツィアは顔を上げると、リヒトを真っ直ぐに見つめた。
「もちろん、レアさまや、ラシード殿下の婚約者候補のナディアさま、リアム殿下の婚約者のエヴァさま――ほか多くの方によくしていただいていますわ。みなさまも、大切な友人です。わたくしにとって、かけがえのない存在ですわ」
「その彼女たちとは、私の話はできないのか?」
「できないことはありませんが、みなさまお立場がありますから……」
やはり、いずれは国を背負い、民を導く立場になるであろう方々だ。どれだけ仲がよくとも、言えないことも多くある。
「世界は、六元素から成っている。それゆえに、元素を司る世界六国は手を取り合って、世を治めなくてはならない。元素を司る国が一つでも潰えれば、世界の元素のバランスが崩れる。そうなっては、世界はどうなるかわからない。いいか? レティーツィア。国同士の争いは、世界を――巡り巡って自国を脅かす愚行と知れ。だが、あくまでも他国は他国であることを、決して忘れてはならない。――こちらに来るまで、毎日聞かされていた言葉です」
凛としたレティーツィアの言葉に、リヒトが目を細める。
「わたくしは、シュトラール皇国の未来の国母として、常にふさわしく在らねばなりません。そのため何もかも曝け出すことはできません。本音でおつきあいしながらも、決して超えてはならないラインが存在しています。殿下も無意識に線引きされておられるかと……」
「……まぁ、そうだな」
「とくに、自国のことや未来の国主たる殿下のことは、軽々しく口にしていいことではないと思っています。これはわたくしだけではなく、みなさま同じだと思いますわ」
皇妃となるのは、できれば避けたい未来ではある。しかし現状、レティーツィアはリヒトの婚約者だ。嫌だからといって、勝手に役目を放棄していいはずもない。レティーツィアが望む円満な婚約解消が叶うまでは、その務めはしっかり果たさねばならないのだ。
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