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「――なぜだ?」
「それは……殿下とともにサロンですごすことが、暗黙の了解となっておりましたから……」
モゴモゴと言うと、リヒトがベンチの背にゆったりと身体を預けて、小さく肩をすくめる。
「それはたしかにそうだ。だが、それが当たり前になっていたというだけで、そうしなければならないという話ではない。気にするな」
「え……? よ、よろしいのですか?」
「――構わん。用があれば呼ぶ。それ以外は好きにしていればいい。お前は不当に縛りつけるつもりはない」
リヒトがあっさりと頷く。レティーツィアはホッとして息をついた。
(でも、咎めるためじゃないなら、どうしてここへ……?)
いや――叱責するためとしても、おかしいか。リヒト自らレティーツィアのもとに足を運ぶ必要など微塵もない。そんなものはイザークに言伝すればいいだけの話だ。
そもそも、そのイザークはどこにいるのだろう? 彼の性格上、リヒトを独りにするなんて考えられないのだけれど。
わからないことばかりで戸惑っていると、リヒトがレティーツィアに視線を向ける。
そして、レティーツィアの風に揺れる金の髪に、そっと手を伸ばした。
「だが――お前に、私よりも優先するものがあったのは驚きだ」
「……!」
長くて綺麗な指が、優しく髪を絡めとる。同時に、輝く双眸が真っ直ぐにレティーツィアを捕らえて――心臓が大きな音を立てる。
レティーツィアは息を呑み、両手で強く胸もとを押さえた。
(し、至近距離からの……『推し』……!)
この距離で見ても、肌は驚くほどなめらかで美しい。繊細な影を落とす長い金糸の睫毛も、虹の光彩を閉じ込めた金の瞳も、真っ直ぐ通った鼻筋も、素晴らしすぎて声も出ない。
(ああ……! 顔がよすぎる……!)
神作画すぎて、直視できない。レティーツィアは顔を赤らめ、あたふたと俯いた。
「わ、わたくしに……殿下よりも優先するもの、ですか……?」
「……違うのか? 私の傍にいるよりも、ここで誰かとすごすことをお前は選んだ。それは、そういうことではないのか?」
「……ええっと……」
「咎めているわけではないぞ? 繰り返すが、昼休みをどうすごしても、それはお前の自由だ。不快に思ってもいない。ただ――少し意外だっただけだ」
「…………」
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