18

「ッ……!」


 ――ああ、これほど神に感謝したことが、かつてあっただろうか。


「……エリザベートさん……」


 エリザベートの手を取り、両手でギュウッと握り締めた。


「禁断の愛って、本当に胸が震えますわよね」


「っ……! わ、わかっていただけますか!?」


 エリザベートもまた顔を輝かせ、もう片方の手をレティーツィアのそれに重ねる。

 首が壊れそうなほど激しく頷きながら、レティーツィアは高鳴る鼓動に唇を噛み締めた。


(ああ、ありがとう……! 同性愛(腐)妄想もイケる口だなんて……! 最高!)


 胸が熱くて、熱くて――ああ、生きていてよかった!


「わかりますとも! 主従――つまり身分違いで、ヤークートは宗教上、同性愛が認められていません。いわば、二重の禁断愛! ときめかずにいられましょうか!」


「そうなんですよ! もちろん、私の勝手な妄想でしかないことはわかってはいるんです! でも、それにしたってあのお二人、仲が良すぎませんか!? あれはいけませんよね!?」


「ええ! いけませんとも! あれで、妄想をするなというのが無理な話ですわ!」


 しっかりと手を握り合って、うんうんと頷き合う。


「また、アーシムが怒るとわかっていて、ラシード殿下は悪戯を繰り返すものですから……」


「ええ、わかります! ラシード殿下をにらみつけているアーシムさまのお姿、私ですらよくお見かけしますもの!」


「従者としてずっとお傍に在るためには、あの怒りや不満をどこかで消化しないといけないと思いません? そうでなくては一緒にいられませんわよね!?」


 瞬間――双方の心のドアが完全に開いた音が聞こえたのは、気のせいではないだろう。


「よ、夜のお仕置きですね……! わかりますっ……!」


「そう! アーシムにお仕置きされてしまうラシード殿下……! ああ、無理っ……!」


 顔が真っ赤になってしまう。

 二人は握り合ったままの震える手に、完熟してしまった顔を伏せた。


「と、尊いがすぎる……!」


「ドキドキしすぎて……つらいです……!」


 しばらくそうしてしんどさに耐えていたが、ふと――二人はどちらからともなく顔を上げた。


 そして、まるで恋でもしているかのように熱く見つめ合うと、その震える唇を開いた。


「ああ……! まさか……わかってくださる方が存在するだなんて……!」


「それはこちらの台詞ですわ……! ああ、エリザベートさん……!」

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