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「わたくし、ミルクをたっぷりと入れたミルクティーが大好きなの。でも、そうすると紅茶がミルクに負けてしまうことが多くて……。いろいろな茶葉を取り寄せて試したの。それこそ、ミルクティーに最適とされている茶葉を世界六国から集めたわ。そうしてたどり着いたのが、これなの。モーリッツ社の大衆茶――MGティー」
「ッ……!? これ、MGティーなんですか!?」
エリザベートがぎょっとして、とんぼ眼鏡の奥の目を丸くする。
そのまましばらく絶句し――信じられないとばかりに再びティーカップに視線を落とした。
「嘘……。だって……MGティーって、先日レティーツィアさまがいらっしゃった貴族以外の身分の者のためのカフェテラスにもありますけど、全然人気ないんですよ? 渋みが強くて、美味しくないって……。私も飲んだことありますけど……」
「ええ。でも、その強い味と渋みが、ミルクをたっぷり入れるミルクティーには最適だったの。今や、わたくしの一番のお気に入りなのよ」
レティーツィアは「だから、今日のおもてなしにもこれをお出ししたのよ。どんなに高級なお茶より、美味しいと思っているから」と言って、にっこりと笑った。
「どうかしら? あのカフェテラスと今ここで飲んだ紅茶、使っている茶葉は同じMGティー。使う量もほぼ同じ。ミルクの量は違うれど、それだって金額にしたら微々たる差だわ。つまり、原価はほとんど変わらないということよ」
ハッとした様子で、エリザベートがレティーツィアを見る。
「原価は……変わらない……」
「そう。カフェテラスではおいくらか知らないけれど、人気がないということは、みなさまはそれをお高いと感じているのではなくて? この金額を払うに値しない味だと。だから人気がないのでしょう?」
「そ、そうです……」
「では、こちらは?」
再びティーカップを示して、さらに笑みを深める。
「どう思われまして?」
「正直……三倍払っても、お安いと思います……。すごく美味しかったです……。正直、まだ、これがMGティーだって信じられないぐらいで……」
「ほぼ同じ原価であるにもかかわらず、三倍のお値段を支払ってもお安いと思わせてしまう。それが、わたくしのケイトが持つ『価値』であり、『評価』なのだと、わたくしは思うのです」
たとえば、原価が三十円。諸々の諸経費が二百七十円だったとして、この紅茶を出すには、三百円が必要だとする。
それを、あのカフェテラスでは五百円で出しているとすると、利益は二百円となる。
それを高いと思わせてしまう。それが、あのカフェテラスの『価値』であり『評価』だ。
しかし、ケイトは、その素晴らしい腕で、千五百円出しても安いと思わせることができる。
それが、ケイトの『価値』であり――『評価』なのだ。
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