【書籍化】悪役令嬢は『萌え』を浴びるほど摂取したい！

１４

「――エリザベートさん」

「え……？　は、はい……？」

　先ほどまでとは一転して、驚くほど険しくなったレティーツィアの視線に、エリザベートがビクッと身を弾かせる。

　そんな彼女を真っ直ぐに見据えたまま、レティーツィアはずいっと身を乗り出した。

「作り上げた作品を、『こんなもの』などと仰らないで。誰がなんと言おうと、これはとても素晴らしいものよ。誇れとまでは言いませんから、どうか卑下なさらないで」

「え……？　あ……は、はい……。えっと……ありがとうございます……」

「そして、材料費だけなんてことも言ってはだめ。材料が揃っただけでは、これは作れないのですから。一番重要なのは……」

　エリザベートの手を取り、それを自らのそれでしっかりと包み込む。

「頭の中のイメージを正確に写し出すデザイン力と、それを形にする技術力。それこそ一番に称賛されるべきものであり、価値のあるものよ」

「……レティーツィアさま……」

「そして、あなたの時間を少なからず拘束することにもなるのだもの。それらにもしっかりと見合った金額を支払わせていただくわ。いいこと？　エリザベートさん。それこそがこの品の本当の価値であり、あなたが受け取るべき正当な報酬だわ」

　原価だけで手に入れられる商品など、この世には存在ない。

「レストランで、材料費だけ支払ってお料理をいただいたりはしないでしょう？　お値段には、場所代や光熱費――働く方々のお給金となる人件費などの諸経費もしっかりと含まれているわ。その上で、さらに利益が出るように設定がなされているもの。そしてね？　エリザベートさん。わたくしは、その利益部分が、その店や料理の評価に相当するものだとも思っているの」

「評価……ですか？」

「ええ。たとえば……」

　そこで言葉を切り、エリザベートの手を開放すると、ゆったりとソファーに座り直す。

　そして、レティーツィアは少し考えると、テーブルの上のティーカップを指差した。

「実は、このミルクティーはモーリッツ社の茶葉を使っているの」

「えっ……!?」

　思いがけない言葉だったのだろう。エリザベートが小さく叫んで目を丸くする。

「も、モーリッツ社って……おもに大衆茶を作ってる……」

「そうよ。まさに大衆茶。これは、わざわざ庶民や中流階級のみなさまが多く利用する商店で買っているの。――美味しかったでしょう？」

「え、ええ……気づきませんでした……。これが……大衆茶……？」

　エリザベートがまじまじとティーカップを見つめる。