12
エリザベートが顔を真っ赤にして、ひどく申し訳なさそうに両手を振る。
「そ、そんな……神だなんて、お、おこがましいです……」
「だって……これ……すごいわ……!」
レティーツィアは目の前に並んだ品を見つめて、何度目かの感嘆の息をついた。
休日――。約束したとおり、レティーツィアのタウンハウスにやってきたエリザベートは、レティーツィアの下にも置かぬ歓待ぶりにひとしきり恐縮していたけれど、やがておずおずとバッグから大きな手帳型のジュエリーケースを取り出した。
開いて――言葉を失う。そこには、先日レティーツィアが予想したとおり、世界六国の尊き方々をイメージしたハンドメイドのアクセサリーがズラリと並んでいた。
そして、その手首には――あの組紐と天然石のブレスレットが。
六元素は闇を司る国――アフェーラ。日本と中国を足して二で割ったような文化を持つ国で、民族衣装もまた中国の袍やチャイナドレスと日本の袴や着物を合わせたような、美しいもの。
攻略対象の皇子は、ユエ・シュオル・ディ・アフェーラ。古語で月を意味する名前だそうで、夜のように美しい黒髪に、まるで月の光のような銀の光彩が煌めく不思議な黒い瞳をしている。
無表情で寡黙だけれど、実は誰よりも暖かく懐が深い方だ。
レティーツィアはゴクリと息を呑むと、震える指で金色に輝くブレスレットを示した。
「これ……リヒト殿下をイメージしたブレスレットね……?」
「ええ。シュトラールの御方のものは、毎回一番悩むんです。これもすごく悩みました……」
エリザベートが、よく見えるようにとブレスレットをケースから取り出して見せてくれる。
「リヒト殿下はとても華やかで美しい方ですけれど……でも殿下ご自身はあまり華美なものを好まれません。ですから、殿下のように眩しささえ感じるほど華やかで美しいものをと思ってデザインすると、殿下のご趣味からはどんどん離れていってしまうというか……」
難しい顔をして、「いえ、私の変なこだわりでしかないんですけど……」と肩をすくめる。
「使うのは私なので、殿下のご趣味である必要はないんです。わかってるんですよ? でも、あまりに乖離しているのも……どうかと思ってしまって……」
「いえ、素晴らしいわ……」
金のハーフバングルタイプのプレスレット。とても細く華奢で、女性の手首を繊細に彩る。
エリザベートの言うとおり、リヒトは輝かんばかりにゴージャスな美形だが、しかし本人はたしかに華美を好まない。より実用的でごくシンプルなものを好む。
ただ、エリザベートの身分でそれを知るのは、とても難しい。
学園では、学園から用意された制服を着用し、そして制服以外のものは、国が皇子のために用意した美しい超一級品を使用している。飾り気のない実用重視なものは、学園で使うことは許されていない。持ち込もうものなら、イザークに取り上げられてしまう。
つまり、学園でのリヒトは、やはりゴージャスでキラキラなのだ。
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