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ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。レティーツィアは両手で胸もとを押さえた。
「…………」
言葉を失っていると、それに気づいたセルヴァが、「ああ、レディの前でするような話ではなかったね。無粋なことをした。すまない……」と苦笑する。
レティーツィアは力なく首を横に振った。
「いいえ、大丈夫ですわ……」
「……しかし……」
「だが、この学園でそんな危険はそうそうありえまいよ。言いたいことはわかるが、それでも週に三度も主に探させるのは、多すぎる」
納得がいかないのか、ラシードがブスッとしたまま言葉を続ける。
セルヴァは何か言いたそうにレティーツィアを見つめたあと、そっと息をついてラシードに視線を戻した。
「ノクスが相手にするのは、何も危険だけじゃないからね。僕の周りの不確定要素はとにかく排除しておきたい性質なんだ。怒らないでやってくれ」
「……まぁ、オレの側近ではないからな。セルヴァがそれでいいなら、オレが言うことはない。だが、気に入らん!」
さらに眉間のしわを深めて「せめて、セルヴァの傍を離れる時は、その旨一言告げるようにさせろ。主人に探させるなど、どんな理由があろうとよくないぞ」と唸る。
「忠誠心があるのなら、余計にだ! 主に心配をかけるのも罪だと教えておけ!」
どうやらノクスの従者としての在りように不満があるというよりは、主のセルヴァのための言葉のようだ。セルヴァがいつも心穏やかでいられるようにという――。
それが伝わったのだろう。セルヴァは眩しげに目を細めると、その甘美な唇を綻ばせた。
「……ふふ。そうするよ。本当に……ラシードは真っ直ぐでいいね」
「なんだ? 馬鹿にしているのか?」
「まさか。褒めたんだよ。そして、感謝もしているんだよ? これでもね」
「……それならいいが……」
学園の中心にある聖堂の鐘の音が響く。
セルヴァは「ああ、予鈴だね……」と呟くと、再びレティーツィアの顔を覗き込んだ。
「騒がせてしまって、すまなかったね。レティーツィア嬢。……しつこいかもしれないけれど、本当に大丈夫なんだね? 何かあったら、遠慮せずに相談するんだよ?」
「……ええ」
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