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不愉快だと言わんばかりに、顔をしかめる。
「……ノクスの忠誠心は、アーシムのようにとても強いよ。だからこそ、いなくなるんだ」
そんなラシードに苦笑し、セルヴァはドアの前のアシームを手で示した。
「主人に危険が迫った時、主人の盾となり、その身を挺して主を守るのがアーシムだ」
「そうだ! それぞ側近だろう!」
「ノクスは主人の剣となり、危険が主を襲う前にそれを排除するんだ。それも、僕の知らないところでね」
「……!」
思いがけない言葉だったのだろう。ラシードが息を呑む。
そしてレティーツィアもまた、セルヴァを見つめたまま目を見開いた。
二人のやり取りに、覚えがあったからだ。
「僕のためならば、喜んで闇に生きる暗殺者になる。それがノクスだ。だから、いいんだよ。姿を消すのは。姿を消している間も、彼が僕のために動いているのは明白だから」
ヴェテルの攻略対象――ノクスと出会う主人公が出逢う、布石となる会話。
シナリオどおりのワンシーンだ。
ただし、その場にいたのはレティーツィアではなく、主人公だったけれど。
「……っ……」
全身から、血の気が引いてゆく。レティーツィアは震える手で口もとを覆った。
(嘘……。これ、絶対まずい……よね……?)
攻略対象と出逢う布石となる会話が、主人公の前で行われなかった。
話の内容的にも、二人が主人公の前でまったく同じ会話をもう一度するとも考えづらい。
と、いうことは――その攻略対象と主人公が出逢う余地がなくなってしまったということにならないだろうか。
『黙ってて! 口を出さないで! というか、どうしてここにいるのよ! あなたがいるから、うまくいかないのよ! どこかに行って!』
昨日のマリナの言葉が、脳裏を巡る。レティーツィアはゴクリと息を呑んだ。
主人公が聞くはずの会話をレティーツィアが聞いてしまったのは、たしかに見方によっては邪魔をしていることになるのかもしれない。
これでは、『あなたがいるから、うまくいかない』と言われても仕方がない。
ただの八つ当たりだと思っていたけれど、もしかしてそうではないのだろうか。
(私……知らないところで、主人公の邪魔をしていた……?)
だとしたら、マリナが過剰な反応を示したのにも納得がいく。
マリナが、あれほどまでにレティーツィアを目の敵にしている理由も――。
(もしかして私……悪役令嬢の役割をちゃんと果たしてしまっているの……?)
自分でも知らないうちに、順調に破滅への道を歩んでいるのだろうか?
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