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「もしや、あの庶民の彼女がまた……?」
葡萄色の瞳が心配そうに翳る。レティーツィアは慌てて首を横に振った。
「いいえ。違いますわ。そうではありません」
もちろん、ゲームのヒロインであるマリナ・グレイフォードについての悩みもないわけではないけれど。
あれから彼女は、ほぼ毎日、何かしら理由をつけてリヒトのもとにやってきては、リヒトやほかの選ばれし方々とお近づきになろうと試みているけれど、まったくうまくいっていない。
ほとんど毎回、リヒトに一瞥すらもらえないうちに、イザークに追い払われている。
リヒトが目当てというよりは、どちらかというと、彼が『皇子自ら学園を案内する』というはじまりの行動を起こさないことにはほかの攻略対象との繋がりができないため、その最初の一歩をクリアーするために来ているように見えるのは、気のせいだろうか?
(どうも、ゲームと同じ状況を作ろうとしているように見えるのよね……)
ということは、彼女も転生者だったりするだろうかと一瞬思ったけれど、しかしゲームなら、主人公にプレイヤーという別世界の者の意思が反映されるのは当たり前のことだ。
そう考えると、ゲームの世界なのに、シナリオどおりに行動する気配がないリヒトのほうがおかしいのかもしれない。
(だから、よくわからなくなってきちゃったのよね……)
ゲームのとおりにものごとが進まないため、破滅を回避するために、何をすればいいのかがまったくわからない。
この一週間――わりと詰んでいる。
丸一年という猶予を考えれば、焦っても仕方がないのかもしれないけれど。
だから、彼女についての悩みはある。それも、自身の将来にかかわる大きなものが。
「お気遣いありがとうございます。でも、違いますわ。ごく私的なことですの」
「そうかい? それならよいのだけれど……。彼女はなぜ、ああも君に突っかかるんだろうね。リヒトも随分煩わされているみたいだし、困ったものだね」
「…………」
その言葉に、内心ため息をつく。
ゲームを先へ進めようとするマリナの行動は、しかしほかの者たちからすれば身分や立場をまったく弁えていないもので、しかもそれに対して、リヒトはこれでもかというほどの塩対応。それはもう、かつて同じプレイヤーだった身からすれば、可哀想になってしまうほどで……。
だからついつい助け舟を出してしまうのだけれど――しかしそれに対して、なぜかマリナはひどく過剰な反応を示すのだ。
にらまれたり、冷たい言葉であしらわれたり、無視されたりは可愛いものだ。昨日はついに怒鳴り散らされた。
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