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インターネットはあってもSNSがまだ存在しなかった時代は、同人作家さまたちは自身の性癖を詰め込んだ同人HPが作って、創作意欲を消化していたとか。
そしてそこに、同じ性癖を持ったヲタクたちが集まり、交流を行っていたらしい。
『萌え』の供給を求めて、血のにじむような努力をしていたのだと――。
「……そう考えたら、もしかしてSNSがないと嘆くのは傲慢なことなのかしら……」
SNSが、インターネットがなければ、ヲタクでいられないなんて、愛が薄い証拠なのでは。
『推し』への愛を爆発させるのに、場所を選んでいる時点でまだまだなのでは。
(先人がそうしてきたように、『推し』への愛を語れる場所は自分で作るべきで、語り合える同志さまも自力で見つけるべきべきなのでは……)
そんなことを、悶々と考えていた時だった。
「レティーツィア嬢! どうしたどうした。この世の終わりみたいな顔をして」
トンと、机に褐色の手が置かれる。
レティーツィアは、ハッとして顔を上げた。
「憂い顔も美しいがな。だが、やはりレディには笑っていてほしいぞ!」
いつの間にか前に立っていたラシードが、レティーツィアの顔を覗き込んでニカッと笑う。
「レティーツィア嬢のような極上の美人ならば、なおさらだ!」
「ッ……!」
動いて話す『推し』が尊すぎて、一瞬にして幸せに包まれる。
いや、動いて話すだけではない。その上さらに、レティーツィアの心配までしてくれたのだ。こんなの、ときめかずにいられようか。
そして、こうやってほかの者に心を砕いているところを、アーシムがどこからか見ているのだと思うと――ああ、たまらない!
(キュン死してしまいそう……)
震える声で「も、もったいないお言葉です……」と答えるのがやっと。
「野猿にしては、いいことを言うではないか」
顔を真っ赤にしてときめきを噛み締めていると、ラシードに続いてレティーツィアの席へとやってきた人物が、優しく目を細めて笑う。
レティーツィアは思わず目を丸くした。
「セルヴァ・アルトゥール殿下……」
「日に日に鬱々としていっているように見えるけれど、大丈夫かい?」
六元素は風を司る国――ヴェテルの第二王子、セルヴァ・アルトゥール・ヴェテル。
豊かに波打つ白髪に、大人の色香に満ちた葡萄色の瞳。国を象徴する色が白のため、制服はほかの色が一切入らない純白。しかしその清廉潔白なイメージに反して、優雅ながらもどこか危険な香りのする――妖しい魅力に満ちた皇子だ。
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