22
「これはこれは、私は気をつけないといけませんね。レアを泣かせたら、レティーツィア嬢に決闘を申し込まれてしまいそうです」
はにかむレアを見て、クレメンスが少しおどけたように言う。
そしてレアの背にそっと手を添えると、その場の面々をぐるりと見回した。
「こんなところで立ち話もなんですし、まいりましょうか」
「だなー」
ラシードが頷いて、いち早く身を翻す。
それにアーシムが素早く従い、ほかの面々もゆったりとそのあとに続く。
「……っ……」
レティーツィアは一番後ろでブルリと身を震わせると、両手で口もとを覆った。
(ああ、視界が幸せ……!)
『推し』と、『BLの推しCP』と『NLの推しCP』が勢ぞろいしているなんて。
高貴な方々は、ただ歩いているだけで美しい。後ろ姿ですら、輝かんばかりだ。
(ああ、私……本当にFORELSKETの世界にいるんだ……)
画面の外から眺めることしかできなかった――憧れ続けた世界。
その空気を吸っている。『推し』たちと同じように。
こんなに素晴らしいことが、ほかにあるだろうか。
ギュウッと、両手を胸の前で握り合わせる。
やはり、願いは一つだ。
『推し』――理想のキャラクターの幸福な人生を見届けたい。
『BLの推しCP』の二人をつぶさに観察し、それをもとに妄想を繰り広げたい。
『NLの推しCP』の二人のために現実でもできることはすべてするけれど、力及ばない時はせめて、二次創作の中だけでも二人を幸せにしたい。
要するに――『推し』たちを思う存分愛でていたい! それだけだ!
(そのために、このポジションは絶対に失えない……!)
公爵令嬢の『身分』と『財力』はもちろんのこと、今のこの『推したちとの良好な関係』も、絶対に失うわけにはいかない。
(そうよ! せっかくこの世界に転生できたのだもの! 最高の萌えを思う存分堪能できるのだもの! 破滅なんてしている場合じゃない!)
かといって、マリナ・グレイフォードの恋の邪魔をするつもりはない。そんな必要がない。自身の破滅さえ回避できればいいのだから。
むしろ、マリナと結ばれることでリヒトが幸せになれるのであれば、二人の恋愛は大歓迎だ。
その時は、全力で応援するし、協力する。円満にリヒトとの婚約解消ができるのであれば、こちらとしても万々歳だ。
(まぁ、主人公がリヒト殿下を攻略対象に選ぶかどうかは、まだわからないのだけれど……)
ラシードとアレクシスが選ばれるのは少々複雑だけれど、しかし自分の萌えのために誰かを不幸にするつもりはない。それはしてはいけないことだと思っている。
だからその場合は、全力でアーシムとレアの幸せをも両立させるだけだ。
やってみせる。どんなに困難なことでも、『推し』たちのためならば――!
「……っ……」
レティ―ツィアは決意も新たに、尊い方々の背中を見つめた。
どうやら、シナリオどおりには進んでいないようだけれど――。
それでも、『推し』たちの幸せのために
幸せになった『推し』たちを愛で続けるために
最高の『萌え』を死ぬまで享受し続けるために
「目指せ。破滅回避」
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