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「これはこれは、私は気をつけないといけませんね。レアを泣かせたら、レティーツィア嬢に決闘を申し込まれてしまいそうです」


 はにかむレアを見て、クレメンスが少しおどけたように言う。

 そしてレアの背にそっと手を添えると、その場の面々をぐるりと見回した。


「こんなところで立ち話もなんですし、まいりましょうか」


「だなー」


 ラシードが頷いて、いち早く身を翻す。

 それにアーシムが素早く従い、ほかの面々もゆったりとそのあとに続く。


「……っ……」 


 レティーツィアは一番後ろでブルリと身を震わせると、両手で口もとを覆った。


(ああ、視界が幸せ……!)


『推し』と、『BLの推しCP』と『NLの推しCP』が勢ぞろいしているなんて。


 高貴な方々は、ただ歩いているだけで美しい。後ろ姿ですら、輝かんばかりだ。


(ああ、私……本当にFORELSKETの世界にいるんだ……)


 画面の外から眺めることしかできなかった――憧れ続けた世界。

 その空気を吸っている。『推し』たちと同じように。


 こんなに素晴らしいことが、ほかにあるだろうか。


 ギュウッと、両手を胸の前で握り合わせる。


 やはり、願いは一つだ。


『推し』――理想のキャラクターの幸福な人生を見届けたい。

『BLの推しCP』の二人をつぶさに観察し、それをもとに妄想を繰り広げたい。

『NLの推しCP』の二人のために現実でもできることはすべてするけれど、力及ばない時はせめて、二次創作の中だけでも二人を幸せにしたい。


 要するに――『推し』たちを思う存分愛でていたい! それだけだ!


(そのために、このポジションは絶対に失えない……!)


 公爵令嬢の『身分』と『財力』はもちろんのこと、今のこの『推したちとの良好な関係』も、絶対に失うわけにはいかない。


(そうよ! せっかくこの世界に転生できたのだもの! 最高の萌えを思う存分堪能できるのだもの! 破滅なんてしている場合じゃない!)


 かといって、マリナ・グレイフォードの恋の邪魔をするつもりはない。そんな必要がない。自身の破滅さえ回避できればいいのだから。


 むしろ、マリナと結ばれることでリヒトが幸せになれるのであれば、二人の恋愛は大歓迎だ。


 その時は、全力で応援するし、協力する。円満にリヒトとの婚約解消ができるのであれば、こちらとしても万々歳だ。


(まぁ、主人公がリヒト殿下を攻略対象に選ぶかどうかは、まだわからないのだけれど……)


 ラシードとアレクシスが選ばれるのは少々複雑だけれど、しかし自分の萌えのために誰かを不幸にするつもりはない。それはしてはいけないことだと思っている。


 だからその場合は、全力でアーシムとレアの幸せをも両立させるだけだ。


 やってみせる。どんなに困難なことでも、『推し』たちのためならば――!


「……っ……」


 レティ―ツィアは決意も新たに、尊い方々の背中を見つめた。


 どうやら、シナリオどおりには進んでいないようだけれど――。


 それでも、『推し』たちの幸せのために

 幸せになった『推し』たちを愛で続けるために

 最高の『萌え』を死ぬまで享受し続けるために



「目指せ。破滅回避」


 

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