21

 胸が痛いほど熱くなって、レティーツィアはぐっと奥歯を噛み締めた。


 アレクシスはレアへの想いに決着をつけ、主人公と新しい恋をすることができたとしても、それはレアの救いにはならない。


 レアとアレクシスが結ばれるルートはない。どう足掻いてもレアは国のため、公爵家のため、クレメンスのもとに嫁ぐのだ。


 それが悲しくて、つらくて、やるせなくて、『レアとアレクシスは自分が幸せにする!』と、前世では二次創作に励んだ。レアとアレクシスが幸せになる物語を書きまくったのだけれど――。


(ああ、レアさま……! アレク……!)


 この世界でも、二人のために尽くしたい。二人を幸せにしてあげたい。


 そのために――いったい自分に何ができるだろう。


(考えなくては……! 二人のためにできることを……!)


 二人の姿に胸を震わせながら決意を新たにしていると、レアがレティーツィアに前まで来て、気づかわしげに瞳を揺らした。


「見ておりましたわ。レティーツィアさま、どうかお気になさいませんよう……」


「え……?」


 なんのことかと目を見開き――しかしすぐにマリナに冷たくあしらわれたことだと気づいて、レティーツィアは唇を綻ばせて、首を横に振った。


「ああ、大丈夫ですわ。レアさま。わたくし、全然気にしていません」


 実際、驚いたけれど傷ついてはいない。不快に思ってすらいない。

 ゲームのシナリオを大きく裏切る展開に、これからどうすればと途方に暮れてはいるけれど、それだけだ。


「編入し立てでただでさえ心細いでしょうに……彼女には『前代未聞の』なんて枕詞がついてますもの。前日に優しくしてくださった方に縋りたくなるのも、当然のことかと……」


「……まぁ……」


「きっと、余裕がまったくない状態だったのだと思います。ですから、少々礼を欠いたぐらいどうってことはありませんわ。お気遣いありがとうございます」


 にっこり笑うと、レアが「なんてお優しい……」と頬を染める。


「わたくしだったら、泣いてしまっていたかもしれませんわ」


「あら、それを仰るならわたくしも、わたくし相手だったから寛容なのですわ。マリナさんがレアさまにあの態度を取っていたら、きっと烈火のごとく怒っていましたわ」


 レアのその細くて柔らかい白い手をそっと両手で包み込んで、目を細める。


「レアさまを傷つけることは、たとえクレメンス殿下でも許しません」


「……まぁ……」


 レティーツィアの突然の男前発言に、レアが嬉しそうに――少し照れくさそうに微笑んだ。

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