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 優雅に一礼し、レティーツィアはクレメンスの後ろに佇む人物へと視線を向けた。


(ああ、レアさまっ……! そして、アレクっ……!)


 白藍色の美しいロングヘアが印象的な美女――レア・アナスタシア・カミルス。


 透きとおるような透明感のある肌に、桜色の唇。彼女の清らかさを表しているかのように、身体のほとんどは限りなく白に近い淡い色。

 ただ、白藍の長い睫毛が影を落とす瞳だけが、深い海の底のようなプルシアン・ブルー。


 立場はほぼレティーツィアと同じ。キュアノスの公爵令嬢で、クレメンス皇子の婚約者だ。


 そして――クレメンスとレアの後ろに控えるのは、アレクシス・ネストル。


 クレメンスの騎士で、ラシードが『実直の擬人化』と揶揄するほど、主人第一でお役目第一。真面目で、堅物で、融通が利かず、世渡り下手。なんとも不器用。

 ただそれだけに、信頼は厚い。


 実はキュアノスは、皇子のクレメンスではなく、このアレクシスが攻略対象だ。


(ああっ……! 『NLの推しCP』……!)


 レアの傍に付き従うアレクシスの姿に、胸がきゅ~んと締め付けられる。


 キュアノスのアレクシスルートでは、もちろんレアが主人公のライバルとなるわけだけれど、レアはクレメンス皇子の婚約者。アレクシスと恋仲になることが許される立場ではない。


 つまり、どのエンドを迎えても、アレクシスとレアが結ばれることはないのだ。


 しかし、実は二人は乳兄妹で、まだ身分や政治を理解する前の幼いころに将来を誓った仲。


 身体が弱く、ほとんど外に出ることができなかったレアに、アレクシスは毎日花を届けて、励まし続けた。きっと、よくなるよ。元気になるよ。僕がついてるよ。頑張ろう、と――。


『頑張って病気を治したら、レアをお嫁さんにしてくれる?』


『もちろん。ずっと傍にいるよ。世界一に幸せにしてあげる。だから、頑張って』


 しかし大人になるにつれて、その幼き日の約束はしょせん夢物語であったのだと――二人は知ることになる。


 アレクシスには、レアに釣り合う身分がなく。


 またレアにも、公爵家という大きなしがらみがあった。


 二人とも、自由な恋愛が許される立場ではなくて――。


(っ……! 切ないっ……!)


 それでも――アレクシスは、レアの傍にいるのだ。クレメンスの騎士として。クレメンスの婚約者であるレアを守っているのだ。


 本当の自分の心を、押し殺して。


 真面目で堅物な男の――禁断の恋。


 必死に自分を律しながら、クレメンスとレアのために尽くす姿は、涙なしには見られない。


(ああ、もう……! 二人が並んでいるだけで、泣いてしまいそう……!)

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