19
ラシードがニヤリと口角を上げ、リヒトを見る。
「そうだろう? リヒト」
「……なんのことだ」
表情を一切変えることなく、その視線をサラリと躱す。
そんな二人のやりとりを――しかしレティーツィアは、眉を寄せたままのアーシムに夢中でまったく聞いていなかった。
(ご、ごめんなさい! 私なんかが、あんなお言葉を賜ってしまって! そうですよねっ! ラシード殿下はあなたのものですものねっ!)
前世では、キャラクターの関係性にも激しく萌えるタイプだったため、キャラクターとして大好きな『推し』と、関係性がたまらなく好きな『推し
『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』では、キャラクターの多さも手伝って、『推し』と『
何を隠そう、ヤークートの主従は、レティーツィアの『BLの推しCP』だった。
(ああ……! この不用意な発言で、今夜ラシード殿下はお仕置きを受けるに違いない……!っていうか、お仕置きを受けてください……! 夜、二人きりになった途端、主従が逆転して、アシードが嫉妬から狼の顔を曝け出して、ラシード殿下を責め立てたりしたら、もう……!)
ああ、たまらない。レティーツィアは真っ赤になった顔を両手で多い、小さく呟いた。
「と、尊い……!」
アーシムの不機嫌顔一つで、妄想が滾る。
それだけで、今日も幸せだ……!
「……たしかに、少し妙でしたね。王族に対する礼儀をご存じないとは」
カツンと、靴音が響く。
妄想の世界に旅立っていたレティーツィアは、ハッとして視線を戻した。
「特別に二年からの編入を許されたような人物が……。そんなことありえるのでしょうか?」
どこまでも清々しい春の朝の空のような髪が、ふわりと揺れる。
「クレメンスか」
「今日も朝から難しそうな顔してんなぁ。お前」
六元素は水を司る国――キュアノスの皇子、クレメンス・フォレミオン・リド・キュアノス。
火を司るヤークートのラシード王子とは対照的で、おっとりのんびりとしていて、もの静か。とても思慮深く、いつも柔らかな笑みを唇に讃えている。
髪と同じ色の瞳はいつも穏やかで優しく、森の中の静かな泉のような皇子だ。
「ごきげんよう。レティーツィア嬢」
「ご機嫌麗しゅう存じます。クレメンス殿下」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます