18
「よう、リヒト! 妙なのに絡まれていたな!」
校舎に足を踏み入れた瞬間、元気な声が響く。
いろいろと考え込んでいたレティーツィアは、ビクッと肩を震わせ、慌てて顔を上げた。
「……ラシード……」
「あそこまで常識がないと、いっそ清々しいな!」
うんざりした様子で眉を寄せたリヒトの肩を、燃えるように赤くクセのある短髪に、やはり炎のように情熱的な赤い瞳の男が叩く。
「っ……!」
ラシード・ムスタファ・アブドゥル=スレイマン・ヤークート。
六元素は火を司る国――ヤークートの第一王子だ。
赤がポイントで入った純白の制服が、褐色の肌によく映える。元気いっぱいで、勝ち気で、育ちのよさゆえに少し我儘だけれど、その分だけ器が大きい、ヤークートの太陽だ。
そのすぐ後ろに控えている、同じく褐色の肌に赤い鋭い目。栗色の短髪に深紅のターバンを略巻きしている青年は、アーシム。ラシードの従者だ。
イザークとは違って本当に人がよく、明るく、社交的。いわゆる『わんこ属性』だ。
だが、敵に対しては獰猛な狼の顔を見せる。
「災難だったな。レティーツィア嬢」
ラシードがレティーツィアを見て、にかっと笑う。
瞬間、かぁっと一気に顔が赤くなってしまって、レティーツィアは慌ててお辞儀をした。
「も、もったいないお言葉ですわ。ラシード殿下」
「ん? どうしたどうした。真っ赤になって。オレに会えたのがそんなにうれしかったのか?はははっ! 愛いヤツめ!」
「っ……」
その屈託のない笑顔に、きゅ~んと胸が締めつけられる。尊さに震えていると、「リヒトで物足りなくなったらいつでも言え。レティーツィア嬢。すぐさま後宮に部屋を用意しよう」と悪戯っぽいウインクまでお見舞いしてくれる。
(ああっ……! ラシード殿下……! 今日も、なんて理想的な『受け』っ……!)
動悸が激しくなりすぎて声も出せずにいると、その後ろでアーシムが「……殿下。お戯れがすぎますよ」と眉をひそめた。
「何が戯れだ。オレは本気だ」
「……余計悪いです。それに、『後宮に部屋を』だなんて。レティーツィアさまはリヒト殿の妃となられる方ですよ? 失礼でしょう。冗談でも、そこは『妻に』ではないのですか?」
「ははっ。馬鹿言え。アーシム。冗談でも『妻にする』などと言ってみろ。オレの身が危ない。およそ現実味のない『後宮に部屋を』だから、許されているんだ」
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