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 シナリオでは、一国の皇子に案内を頼むという天真爛漫っぷりに「仕方ないな」と苦笑して、リヒトは自ら学園を案内するのだ。


 その中で、主人公は他国のプリンスやその側近たちと出逢う――。つまり、リヒトが学園を案内しながら、主人公を攻略対象全員に引き合わせるという展開となっている。


 それによって、主人公は、『学園はじまって以来の前代未聞の転入生』というだけではなく、『シュトラールの皇子自ら学園を案内した前代未聞の庶民』ということで、攻略対象たちから一目置かれるようになるのだ。


 と、いうことは――。


(ちょ、ちょっと待って? 殿下がマリナを案内しないと、ゲームがはじまらないのでは? それってどうなの?)


 悪役令嬢としての破滅は絶対に避けたいけれど、しかしゲーム自体がはじまらないとなると、それはそれで多くの不都合が起きてしまうような。


(だってそれってつまり、シュトラール皇妃への道を順調に進むってことじゃないの……?)


 リヒトが主人公に恋をすることなく


 レティーツィアが婚約破棄されることもなく


 当初の予定どおり、粛々と――。


「っ……!」


 ゾワッと、冷たいものが背中を駆け上がる。


(そ、それは困るっ……!)


 とても困る。すごく困る。困るどころの話ではない。


(く、繰り返すけれど、転生したのが主人公じゃないってところが、神さまは『私』を本当によくわかってるのよ! だ、だって! だって私は……!)


 レティーツィアはブルリと身を震わせると、はぁ~っと深いため息をついた。


(『推し』と自分の恋愛――つまり『夢展開』は、大地雷なんだものっ……!)


 自分にとって『推し』は、あくまで『愛でるもの』だ。


『推し』は生きているだけで尊いもの。ありがたいものだ。


 自分はただ、『推し』が幸せになるのをじっと見守っていたい。


 それ以上に『推し』に望むことなど何もない。望んではいけないとすら思っている。


 だから、『推し』と自分がどうこうというのは、妄想ですらできないし、したくない。


 もちろん、『推し』との恋愛妄想を楽しむ『夢女子』のみなさまを否定するつもりはない。それはそれで、作品の楽しみ方としてアリだと思う。


 けれど、自分は無理なのだ。そのタイプではないのだ。


(『推し』と同じ世界に行きたかったのだって、『推し』と恋愛をしたかったからじゃない。『推し』の幸せをより近くで見守りたかったからだ)

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