15

「君は……」


 内心首を傾げていると、リヒトがゆっくりと口を開く。

 マリナがぱぁっと顔を輝かせる。しかし、そんな彼女に、リヒトはひどく冷ややかな視線を向けた。


「まず、礼儀というものを学ぶべきだな。私に声をかけるのは、それからだ」


「――!」


 マリナの表情が凍りつく。

 レティーツィアもまた息を呑み、リヒトを見つめた。


「え……?」


 今、なんて――?


「――行くぞ。イザーク」


 それだけ言って、リヒトが足早にマリナの脇をすり抜ける。


「っ……! 待っ……!」


 マリナは身を弾かせると、素早く振り返ってリヒトの背中に手を伸ばした。


「リヒトさま!」


 その声が聞こえたのか――リヒトがピタリと足を止める。

 そして、肩越しにレティーツィアとマリナを振り返った。


「――何をしている?」


 しかし、その輝く金の双眸はマリナにではなくレティーツアへと向けられて、マリナは――いや、レティーツィアも驚愕に目を見開いた。


「教室まで一緒に行くのだろう? レティーツィア」


「えっ……? そ、それは、そうですが……」


「ならば、早く来い」


 それだけ言って、リヒトがさっさと歩き出す。

 レティーツィアは「は、はい!」と叫ぶと、慌ててそのあとを追った。


「ッ……! リ、リヒトさま! どうしてっ……!?」


 マリナの愕然とした声がする。


 もちろん、それはリヒトにも聞こえているはずだ。しかし、その足取りにはまったく迷いが見られない。ただ前だけを見つめて、颯爽と歩いてゆく。


 それは、一国の皇子としては至極正しい。


 正しいけれど――。


(な……何? 何が起きているの?)


 予想外の反応に、混乱する。


 シナリオでは、皇子に案内を頼むという天真爛漫っぷりに「仕方ないな」と苦笑して、皇子自ら学園を案内するのだ。

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