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 それを当たり前だと思ってもらっては困るとばかりに、イザークがぴしゃりと言う。

 そんなことを言われるとは夢にも思っていなかったのか、マリナが困惑した様子で俯いた。


『どうして?』


 チョコレート色の瞳に、疑問の色がありありと浮かぶ。

 レティーツィアはハッとして、彼女の前に進み出た。


「で、でも私……リヒトさまが……」


「……マリナ・グレイフォードさん」


 そして、なおも言いつのろうとした彼女をやんわりと止め、唇を綻ばせた。 


「転入し立てで不安なのはよくわかりますわ。代わりに……というのもおこがましいですが、わたくしでよろしければご案内させていただきますわ」


「っ……」


 意地悪と受け取られないよう、しっかりとマリナの目を見て、穏やかに微笑んで、言う。

 しかし、マリナはサッと顔色を変えると、レティーツィアを強くねめつけた。


「……邪魔をしないでもらえますか? 私はリヒトさまと話しています。あなたではなく」


「……え……?」


 予想だにしていなかった返答に、思わず目を丸くする。

 同時に、再び周りがざわめいた。


「信じられない! なんて言いようだ!」


「レティーツィアさまのお心遣いを……!」


「無礼な!」


 その場にいた誰もが息を呑み、不快感を口に上らせる。

 だがレティーツィア自身は、怒るよりも、呆れるよりも、ただ驚いて、まじまじとマリナを見つめた。


(待って……?)


 どういうことだろう? わけがわからない。


(まだルート分岐もしてない段階なのに、なぜこんなあからさまに敵意を向けてくるの?)


 ルート分岐をしていない。それは言い換えれば、まだ攻略対象が定まっていないということ。


 それはつまり、現段階ではまだ、レティーツィアは主人公のライバルではないということだ。


 当然、レティーツィアは、虐めや嫌がらせと受け取られる行動をまだ何一つしていないし、それで主人公が傷つき、仲が拗れたということもない。


 そもそも、シナリオでも、この『現実』でも、レティーツィアと彼女はこれが初対面なのだ。

 もちろん、シナリオ上でも、この段階で二人がいがみあうような展開は一切ない。


(それなのに、どうして……)


 レティーツィアに対して、これほど敵意丸出しの態度を取るのだろう?

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