13
(どうしよう……)
諌めるべきだろうか?
身分低い者から声をかけるなど、本来なら許されないことだ。礼儀に反している。しかも、後ろから声をかけ、足を止めさせるなんて。
校舎の案内も、皇子がすることじゃない。リヒトのほうから厚意で申し出たならともかく、今の彼女の立場でねだっていいことではない。
(でも、それをしてしまっていいの……?)
それは、シナリオをなぞることにならないだろうか?
正しいことを言っていても、その先はやっぱり破滅が待ち受けているのではないだろうか?
「……ッ……」
ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。
レティーツィアはブルリと身を震わせ、思わず自分自身を抱き締めた。
「――失礼」
その時だった。リヒトの忠実な従者であるイザークが、素早く主人の前に進み出る。
そしてマリナを見下ろすと、にっこりと笑った。
「マリナ・グレイフォードさん、でしたか。学園の案内は誰かほかの方にお願いしてください。殿下はお忙しい身ですから」
「……!」
その言葉に、ハッとして顔を上げる。
ほぼ同時に、マリナがその綺麗な眉を寄せた。
「え……? でも……」
大きなチョコレート色の瞳が、戸惑いに揺れる。
「昨日は……」
「……たしかに昨日、学外で迷子になっていたあなたを学園まで案内したと、殿下より伺っております」
マリナの言いたいことを察したのか、イザークがにっこりと笑って頷く。
(殿下とマリナは、昨日出逢ったのね……)
学園外で自分が入る寮を探して迷子になり、困っていたところにリヒトと出逢い、学園まで送ってもらったというのは、まさにシナリオどおりの展開だ。
でも――だったら、今の言葉はなんだろう?
シナリオどおりならば、ここでは誰も彼女の言動を咎めないはずなのに。
「ですよね? だから、私……」
「しかしそれは、たまたまタイミング的に殿下が気ままに学外の散策してらした時だったのと、その場に殿下以外いらっしゃらなかったからにすぎません」
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