12

 人を案内するなど、高貴な者がすることではない。それをよりにもよって皇子に乞うなど、無礼どころの話ではない。


 そもそも一国の皇子に何かをねだるなど、それ相応の身分があったとしても、軽々しくしていいことではないのだ。


 そんなことは、子供でも知っている。当たり前のことなのに。


(でも、わからいんだ……。マリナには……)


 前世の自分もよくわかっていなかった。二十一世紀の日本には、厳格な身分精度も、それに基づいたしきたりもなかったから。


「…………」


 みなが一様に奇異なものを見る目をマリナに向け、ヒソヒソと囁き合う。


 この場にいる者の中で、あきらかにマリナだけが異質だった。


(それは、生きる世界が違う者が操作しているキャラクターだからなの……?)


 ゴクリと、息を呑む。


 レティーツィアとなって、はじめて見えてきたもの。


 プレイヤーだった時には見えなかった、気づかなかった、感じられなかったさまざまなもの。


 それらが、こんなにもヒロインの言動の――そして、彼女自身の印象を変えてしまうなんて。


(ああ、そうか……)


 だから、ゲームのレティーツィアは、あんなにも執拗にマリナの振る舞いを批判したのだ。


 嫉妬が少しもなかったわけではないだろう。しかしそれ以上に、マリナの傍若無人っぷりが許せなかった。


 リヒトの立場も考えず、その顔に泥を塗りかねない行いを繰り返すことが、どうしても。


 リヒトが広い心でそれを許しても、レティーツィアは受け入れられなかった。


 リヒトはシュトラールが戴く次の王。


 侮られることも、軽んじられることも、決してあってはならない。


 だから、激しく叱責した。繰り返し否定した。それでもまったく態度を改めないマリナを、リヒトから引き離すべく画策した。


 すべては――リヒトのために。


「……ッ……」


 じくりと胸が痛む。


 虐めではなかった。不当な意地悪ではなかったのだ。


 それなのに――。


「リヒトさま? どうなされたんですか?」


 奥歯を噛み締めた瞬間――マリナがリヒトを見つめたまま、小首を傾げる。

 その声にピクリと肩を震わせ、レティーツィアは慌てて二人に視線を戻した。

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