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人を案内するなど、高貴な者がすることではない。それをよりにもよって皇子に乞うなど、無礼どころの話ではない。
そもそも一国の皇子に何かをねだるなど、それ相応の身分があったとしても、軽々しくしていいことではないのだ。
そんなことは、子供でも知っている。当たり前のことなのに。
(でも、わからいんだ……。マリナには……)
前世の自分もよくわかっていなかった。二十一世紀の日本には、厳格な身分精度も、それに基づいたしきたりもなかったから。
「…………」
みなが一様に奇異なものを見る目をマリナに向け、ヒソヒソと囁き合う。
この場にいる者の中で、あきらかにマリナだけが異質だった。
(それは、生きる世界が違う者が操作しているキャラクターだからなの……?)
ゴクリと、息を呑む。
レティーツィアとなって、はじめて見えてきたもの。
プレイヤーだった時には見えなかった、気づかなかった、感じられなかったさまざまなもの。
それらが、こんなにもヒロインの言動の――そして、彼女自身の印象を変えてしまうなんて。
(ああ、そうか……)
だから、ゲームのレティーツィアは、あんなにも執拗にマリナの振る舞いを批判したのだ。
嫉妬が少しもなかったわけではないだろう。しかしそれ以上に、マリナの傍若無人っぷりが許せなかった。
リヒトの立場も考えず、その顔に泥を塗りかねない行いを繰り返すことが、どうしても。
リヒトが広い心でそれを許しても、レティーツィアは受け入れられなかった。
リヒトはシュトラールが戴く次の王。
侮られることも、軽んじられることも、決してあってはならない。
だから、激しく叱責した。繰り返し否定した。それでもまったく態度を改めないマリナを、リヒトから引き離すべく画策した。
すべては――リヒトのために。
「……ッ……」
じくりと胸が痛む。
虐めではなかった。不当な意地悪ではなかったのだ。
それなのに――。
「リヒトさま? どうなされたんですか?」
奥歯を噛み締めた瞬間――マリナがリヒトを見つめたまま、小首を傾げる。
その声にピクリと肩を震わせ、レティーツィアは慌てて二人に視線を戻した。
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