10
イザークが挨拶したことで、その前を歩く絶対的な主君もレティーツィアに目を止める。
レティーツィアは片手を胸に当て、もう片方の手でスカートを軽く持ち上げた。
「ご機嫌麗しゅう。リヒト殿下」
「――ああ」
風にふわりと遊ぶ髪が、陽光にキラキラと輝く。
表情を一切変えることなく、リヒトは横目でレティーツィアを一瞥すると、小さく頷いた。
「教室までご一緒してもよろしいでしょうか?」
「好きにしたらいい」
「……ありがとうございます」
再び歩き出したリヒトの後ろを、一礼してついてゆく。
「まぁ、ごらんになって。シュトラールの御方よ」
「リヒト殿下……。なんて麗しい……」
遠巻きに、女子生徒たちの黄色い声が聞こえる。
それが自分のことのように誇らしくて、レティーツィアは思わず唇を綻ばせた。
(そうよね! わかる! わかるよっ……!)
全力で同意しながら、その後ろ姿を見つめる。
(ああ……! 今日も今日とて、本当にお美しいっ……!)
美しいだけではない。立ち居振る舞いすべてが、皇子たる威厳に満ちている。
将来、国を――民を背負う者としての自覚がそうさせているのだと思うと、胸が熱くなる。
レティーツィアへの返事はそっけなかったけれど、またそれがいい。
王ともなれば、直答を許されるのは一部の限られた者だけになる。それほど、君主たる者の声や言葉は尊いものなのだ。皇子の今でも、惜しんで然るべきものだと思う。
(動いて話す『推し』……! もうそれだけで、尊い……!)
急に、憧れの乙女ゲームの世界に転生したのだという実感が湧いてくる。
レティーツィアはリヒトの背中を見つめたまま、ブルリと身と震わせた。
(前世で、何度画面の向こうに行きたいと思ったか……! 本当にそれが叶ったんだ……! 今、私は、推しと同じ空気を吸っているっ……!)
こんな素晴らしいことがあるだろうか。
(ああ、もう……! 神さまって本当にいるんだな……! 本当にありがとうございますっ!転生したのが主人公じゃないってところが、また『私』のことをよくわかっていらっしゃると言わざるを得ない……! 最高っ……!)
感激に胸を震わせていた――その時。タタタッと足音も軽やかに、誰かがレティーツィアを追い抜いてゆく。
レティーツィアはハッとして目を見開いた。
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