前世の記憶が戻る前の自分とはまったく異なる視点と、ゲームにかんする記憶――とりわけシナリオについての知識が得られたのは、本当に不幸中の幸いだった。


 そして、記憶が戻ったタイミングもよかったように思う。これ以上はないというほど。


(今は、新学期がはじまったところ。つまり、ゲーム開始直後――物語分岐前だもの。今なら、まだどうとでもなる。何があったとしても取り戻せる)


 すべての運命が決まるのは、三月――終業式。ほぼ丸っと一年の時間がある。


 それはやっぱり、とてつもなく大きい。


(このアドバンテージを上手く活かして、絶対に回避しなくちゃ……!)


 この先に待ち受けている――破滅を。


「――お待たせいたしました」


 決意を新たにすると同時に、ケイトが鏡台に櫛を置き、数歩下がって頭を下げる。


「今日もお美しゅうございます。レティーツィアさま」


「……ありがとう」


 鏡越しにケイトに微笑みかけ、スラリと立ち上がる。

 そのまま姿見の前まで行って、再度念入りに自身の姿をチェックすると、レティーツィアは満足げに目を細めた。


「いいわ。では、行きましょうか」


 六聖アエテルニタス学園へ。


 運命を変えるために――。



 

          ―*◆*―




「ごきげんよう。みなさま」


 唇に微笑みをたたえて、颯爽と歩く。

 白い制服の裾が、ヒラリと優雅に揺れる。


「ごらんになって。レティーツィアさまよ」


「ああ、今日もお美しい……!」


「本当に素敵な方……。憧れるわ……」


 六聖アエテルニタス学園は、身分によって制服が違う。


 女子生徒だと、庶民・中流階級は濃いブラウンのジャケットにスカート。スカート丈は膝下。新興富裕層ブルジョアはキャラメル色のジャケットに、同じ色でミモレ丈のスカート。貴族はベージュのワンピース。そして――選ばれし者は、純白に国の色のポイントが入ったロングワンピースだ。


 もちろん、レティーツィアが身に纏う制服は、純白に光の国・シュトラール皇国の色である金がポイントであしらわれた美しいものだ。

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