必死に考えるも――思い出せない。レティーツィアはため息をついた。


(自分の記憶力を詰りたいところだけど……。でもよく考えれば、仕方のないことなのかも。だって、ヒロインは最初『庶民』なんだもの……)


 本来なら、公爵令嬢であるレティーツィアが気にかけるような相手ではないのだ。まったく住む世界が違うのだから。


(たしかめないと……!)


 この世界は自分が知る、乙女ゲーム『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』のままなのか。そのシナリオどおりに進んでいるのか。


 だとしたら――。


「…………」


 レティーツィアは呼吸を整え、ぽかぽかとした日が差し込む窓を真っ直ぐに見つめた。


 

          ―*◆*―



『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』は、聖なる六元素から構成される世界が舞台。


 国を、その世界そのものを揺るがす恋をするという――学園ファンタジー乙女ゲームだ。


 世界には六つの国があり、それぞれが世界を構成する六元素――光・闇・地・火・風・水を司っている。

 六つの国を簡単な地図に書くと六芒星の形をしていて、手を繋いで輪を作るかのように並ぶ六つの大陸の外には外海そとうみが、内には内湖うちうみが広がる。


 そして、その内湖の中央には『学園島』と呼ばれる、一つの島全体を敷地とする巨大な学園――六聖アエテルニタス学園がある。


 それは、六つのどこの国にも属さない――しかし、この世界のために設けられているもの。


 選ばれし者――六つの国の君主となるべき者はもちろんのこと、政治にかかわってゆく者や民を導く立場に立つ者は、六聖アエテルニタス学園で学ぶことが義務づけられている。

 学園には、厳しい試験を突破した貴族・新興富裕層ブルジョア・中流階級・庶民も通っている。

 つまり選ばれし者たちは、将来国を治めるために、三年間――学園という社会の縮図の中で、他国を背負う者と交流を持ちつつ、世界のしくみを学ぶのだ。


 主人公プレイヤーは、何者かの意思によって選ばれ、二年の春に学園に転入してくる。


 それは、国の運営にかかわるであろう選ばれし者以外は、一年にも及ぶ厳しい試験を突破し、ようやく通うことが許される中で――前代未聞のこと。


 そこで、一年間を過ごす中で、六つの国のプリンスやその側近たちと素敵な恋をするという内容になっている。

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